hyla’s blog

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「完全なる首長竜の日」

 ずいぶん前から気になっていた本だけど、ようやく読む事ができた。


 文章は読みやすくて、一気に読める。ただし、読後感は、良いとは言い切れないところがある。

 
 第9回「このミステリーがすごい」の大賞受賞作だけど、基本設定はSF。なので、SFを読み慣れている人にとっては、割とよくあるパターン。荘子の「胡蝶の夢」が下敷きになっている。
 意識不明の患者と直接SCインターフェースを用いてコミュニケーション(センシング)することができるという状況で、主人公の和敦美は、自殺して意識不明の弟浩市とセンシングしつつ、その自殺の原因を探っている。ところがセンシングをくりかえすうちに、現実がセンシングの浸食され、自分が現実を生きているのかセンシング中なのかがわからなくなってくる。
 ところが実は、現実と思っていたのは…。


 と言う話。



 最後に、実は現実と思っていたのは全く嘘だったという言う事を、今度こそ本当に目覚めた主人公が知って終わる、と思わせて最後にまたひっくりかえしてくれるので、再びどこまでが本当の話だったのか、読み手もわからなくなる。
 多分、こうした設定は、SFに余りなじみのないミステリーファンにとっては新鮮だっただろう。けれど、SFならサイバーパンクとか、とてもありがち。なので、どのように世界認識がひっくり返るかその理由、何故そのような世界になっているのかの設定や虚構世界の怪しい美しさなどで読ませる。
 で、この作品はその辺の世界観の広がりは弱い。そして、現実と思っていたものが実はそうでなかったと知った時、何ともむなしくなる。その偽りの現実を作り出していた主人公の救いの無い状況が、何とも身につまされる現実なので。その点を書けている事を、どうとらえるかが評価の分かれ道だろう。


 私にとっての評価は、佳作。それなりに整った良い作品ではあるけれど、眼から鱗系の、価値観をひっくり返されるようなインパクトはなしというところ。


 でも、タイトルはすごく良いと思います。