hyla’s blog

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「魚舟・獣舟」

 先日Amazonで本を買った際に、オススメされてついでに買ってみた。
 昨年の日本SF大賞の「華龍の宮」の元になっている短編で、この短編自身、発表された時には評判になったととの事。

 

魚舟・獣舟 (光文社文庫)

魚舟・獣舟 (光文社文庫)

 

 で、確かに良くできている話だ。特にSFで短編の場合、その世界の設定なんかを不自然にならないように説明しつつ、世界に引きずり込むのは長編より難しいかもしれない。けれど、少ないページ数でも、読めばきちんと世界が明確に見えてくる。


 そして、最後のひっくり返しも、なかなか見事だ。人が生き物に対して持つほろ苦く切ない心情や、そういう甘さにしっぺ返しを食らわせることもある生物の本性が、直球でくる。生物が好きで、生物の性質をよく知っていて、時には人の考える範疇に治まらない獰猛さも含めて、それをあるがままに受け入れる感じが良い。

 その上で、バラードの「沈んだ世界」みたいな設定が物語りとも良くあっていて、なかなかよかった。



 もちろん、細かく見れば、ありかな〜?と思う所はある。
 人の女が人とそうでないものを同時に産み、それが「朋」となって帰ってきて「魚舟」になるなら、その大切な「朋」をできる限り魚舟にできるように、小さな子供から必ず「朋」を大事にするような文化ができているはずだ。年頃になるまで、それを学ばないというのは、おかしい。
 また、そういう年頃だったから、というのではなく、何故時季外れに帰って来た「美緒」の「朋」を、子供らはいじめてしまったのか、その必然性が不明確だ。
 獣舟が、陸地に上がってくる過程で、姿を変えるというのも、何だかそんな短い期間で生物がその形態や生態を大きく変化させることなんかできるのか?と思ってはしまう。

 
 けれど、これらの事を書けば、それは短編ではなくなるだろうし、それを潔くカットする事で、まとまっていることは確かだと思う。


 
 そして、想像もつかないようなあまりにも異質なものではなく、けれど60年代のそれはちょっとご都合主義と感じられる科学技術でもない、ちょうど良い加減にブレンドされた、70〜80年代のSF全盛期とも似た雰囲気がとても読みやすい。





 と言う事で、長編の「華龍の宮」の方も期待できそう。問題は、「華龍の宮」は早川のJコレクションなので、新書版。文庫じゃないんだよね。
 

 大人としては、書棚の都合上、文庫化を期待いたします。





 でもま、そう言いつつ本屋の店頭で見れば、買うかもね…。