hyla’s blog

はてなふっかーつ!

二冊目の本


 さて、昨日来た2冊目の本はこれ。

 

銀色の愛ふたたび (ハヤカワ文庫SF)

銀色の愛ふたたび (ハヤカワ文庫SF)



 まあ、その銀色の恋人 (ハヤカワ文庫SF)は、川原由美子の表紙の奴をもってますから、その続編と言われるとやっぱりついつい一応は目を通したくなったりします。そして、何かこれ売れるんだろうかと真剣に心配をしてしまった。


 というのも前作の「銀色の恋人」という作品は、シルバーという名の完全無欠な抜群にハンサムな人型ロボットに恋をしたお金持ちの少女が、彼と共に自立していくというお話。そして、ロボットの方にもそれにつれて自意識が生まれる、という展開なんですが、SFちっくではあるけど基本甘甘ラブストーリーであります。まあ、執事喫茶ではないですが、常に控えめに、でも忠実無比な恋人っていうのは腐女子は基本的にとっても好き〜。ということで、SFでない人にも幅広く売れたと見た。


 で、そういう作品の23年目の続編なんですが、これあり〜?という展開が数々。いいえ、かつての恋人(前作のヒロイン)ジェーンへの思いを無くし、シルバーという名前がヴァーリスに変わって新しくローレンというヒロインと恋をするのはいいの。そのヒロインの書いた原稿という設定なためか、やたら文章が単語の羅列になってて読みにくいけど、それも許そう。これは翻訳者のせいと言うより、原作がそういうノリなんだろう。多分どういう調子で訳すか、で苦労もしたんだろう。(でもこの段階で、「ロボットと孤独な少女の心にしみいるラブストーリー」が好きな読者はついていかないと思うけど。)


 しかし何よりもっと根本的な処に疑問を覚える。これはロボットの話だったんだよなあ、確か。だのに、今回ロボットは自由自在に変身していきなりドラゴンとか車輪とか、果ては目に見えない原子のレベルまで変化したりできて、これってナノマシーンの話だったっけ。おまけに、いきなりヒトにつくられたものではあってもヒト以上に素晴らしい存在であるロボット達が、自立して人間の元を逃げ出し、人間を支配って・・・。そして、ロボット(機械)と人間のハイブリッドが生じるって、それは何?



 ・・・・・・。



 これって、何が言いたかったんだ?




 以前にアンドレノートンの本の後書きに、「彼女の作品はその後のチェリイやタニス・リーといった女流作家に大きな影響を与えた。スター地点ではよく似ていた彼女らであるが、しかしあくまでチェリイはSF作家であり、タニスリーはファンタジー作家である」

 
 ってな文章があった。



確かに、私はタニスリーはFTの作家として認識している。死霊の都 (ハヤカワ文庫 FT 50)とか「幻魔の虜囚 (1983年) (ハヤカワ文庫―FT)なんかの作品では、どこかエロティックでありながら怪しく絢爛豪華な世界が魅力的で、上品ではあるけれどちょっとアダルトなFTという趣があった。(最近訳されている本はよく知らないが。)しかし、それでもSFから出発した人間なら、そしてロボットに生じた自意識の問題を扱うなら、やっぱりロボット三原則くらいはふまえて欲しい。いくら何でも、さしたる理由もなくロボットがいきなりその能力を生かして人間を殺し始めるのはなしだろう。人間から自立して人間を支配するのも結構だが、それならそれで、なぜそのような事が可能になってしまったのか、そこをきちんと詰めておかねばおかしい。この作品にはそこがない。
 アシモフのロボットシリーズでもエイミートンプソンのヴァーチャル・ガール (ハヤカワ文庫SF)でも何でも、ロボットが自意識を持つという設定は至極結構。しかし、この作品で描かれているのはこれではもはやロボットではない。ロボットのシルバーではなく、ここで記述されるものは、FT作品でありがちな神や悪魔や魔神といったものにしか見えない。これじゃあロボットシリーズのR・ダニール・オリヴォーや、R・ジスカルドの方が、ずっと魅力的だ。


 前作でも技術的な設定はかなり甘いところがあったし、ロボットの中に生じた自意識の存在を、シルバーが分解された後に彼から送られたきた霊的な交信という形で証明したりして、いかにもFTのタニスリー的な処理だったと思う。でもまあ許容範囲。というのも、まだシルバーはロボットらしかった。しかし今回の作品は、前作から10年ちょっとの設定で、いきなりロボットがここまで変化するか〜?SFの世界では確かに魔術的なナノマシーンがいろいろ出てきたけど、そういう設定をきちんと消化できてない気がする。



 と言うことで、続編は駄作というパターンに見事にはまってるような気がします。


 

 あんまり売れないと思うけど、表紙まで改めて(川原由美子版をなぜ替えちゃったんだろ?)再販した「銀色の恋人」の方は、そこそこは売れるだろうから良いのか・・・・?。