hyla’s blog

はてなふっかーつ!

本を読む

 土曜日に東広島まででかけていた。でもって、帰りに列車の時間待ちをした岡山駅三省堂書店をみつけた。待ち時間は1時間。同行者は夕方ということもあって、夕食を食べたようだけど、結構大きな本店である三省堂があって、しかもあたしはここしばらく本に飢えていた。となれば、夕食なんてのはどうでもいい。そこいらのパンでも買って、列車で食べれば良いだけのこと。早速に書店になだれ込んで、時間いっぱい遊んで、重い荷物を抱えて帰り道についた。

 で、まず1冊目はこれ。
 

裏切りの月に抱かれて (ハヤカワ文庫FT)

裏切りの月に抱かれて (ハヤカワ文庫FT)

 

 帯には「現代ロマンティックファンタジイの傑作、ついに刊行!」って書いてある。それでなくも、コヨーテに変化する主人公が知り合った人狼が誰かに殺されて・・・。ってあったら、手塚治虫のバンパイヤから漫画入門をし、平井和正も持っていた人間としては一応は眼を通したくはなるわけだ。

 
 で、読んだ。一気に読めた。それなりに面白いと思う。人狼の話だけど、バイオレンスシーンも山盛りの割には妙に明るく健全な雰囲気がある。それって、主人公で且つ語り手であるマーシイのキャラに寄るところが大きいと思う。それほど力は無くても、それなりに立ち回って自分の主義主張はきっちり通すあたりは軽妙洒脱。

 
 で、楽しいのだけど、なんだけど、微妙に引っかかる。これって、FTなの・・・か?

 

 現代に密かに隠れ生きる人狼の間に起こった殺人事件の事件に焦点を当てれば、これはサスペンスもの。だけど、主人公マーシイと隣に住むαな(優位の雄)人狼アダム、あるいは同じく人狼でかつての恋人サミュエルとの恋のさや当てって要素の方が圧倒的に強い。ファンタジーの要素って、人狼とか吸血鬼とか精霊(フェイ)が現代社会に生きている という設定だけ・・・。

  ファンタジーって、ファンタジーって、こういうもの?

  魔法でも、ドラゴンでも、妖精でも、闇との戦いでも、何でもいいけど、ファンタジーというなら、そこには今いる現実社会より遙かに現実らしい異世界があってほしい。更に、そこで繰り広げられる物語の中で主人公と寄り添うように悲しさや愚かさや気づきがあって欲しい。ファンタジーの中には、どこかにそういう気持ちのリアルが無ければいけないと思う。

 
 そう言う点で、この作品はフェイや人狼が息づく現代社会にリアリティはあるけど、テンポ良く物語は進むけど、本質的にこれって気持ちのリアルがない。きつい言い方をすれば、あるのはハーレクイン的な女性の考えるロマンチックな妄想だ。
 無論、男性の書くウルフガイだって似たところはある。平井和正ウルフガイシリーズに出てくる女性も、理知的で清純だけど色っぽく一途であどけない大人の女性って、いかにも男性作家の考える妄想的な登場人物だ。だけど、一方で人狼であることの疎外感や悲しさがあって、それとひどく暴力的なバイオレンスシーンとの対比で読ませる。

 
 この作品は、そう言う点で主人公のキャラはそれなりに魅力なんだけど、アダムとサミュエルというヒーロー二人を配して、そのどちらもが主人公に惹かれているっていう設定をつくった段階でやりすぎだと思う。コヨーテに変身する人間であることの感性、リアルをもっと追求するべきではなかったか、と思う。そこに主眼があって、読み込めばほのかに判るロマンスがあるなら・・・、と思ってしまうのだ。

 

 ま、そうは言いつつ、そういうハーレクイン的な設定に気持ちよさを感じる部分があることは、恥ずかしながら事実。なんだけど、それを踏まえて素直に「おもしろかったの〜」って言うのは、どうもはばかられてしまう、そういう事を言う自分って、ひどく恥ずかしい気分になるんだよね〜。ああ、この自意識こそが、人生を生きにくくしてるんだろうねえ。


 

 と言うことでこの作品、(私みたいにひん曲がっていない)女性には受けはよろしいかと思いますが、男性受けはどうなんだろうなあ・・・・。