BG、あるいは死せるカイニス
これを読んだ。
- 作者: 石持浅海
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2009/10/10
- メディア: 文庫
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図書館で適当に借りた一冊だったけど、わりとよかった。基本的にすべての人は女性で生まれて、もっとも優れた個体(約25%)だけが男性に自然に性転換する世界での殺人事件のお話。でも、基本的に高校での事件で主人公も女子高生なので読みやすい。
で、こういう現実ではない世界というものは、そういう世界なのだということを説明調にならないように、けれど分かりやすく記述しておかねばならない。その点もまずまず合格だろう。
その上で、でてくる人物にはある程度のリアリティーがあり、感情の動きも分かりやすい。
とはいえ、やはりまだ世界のスケールのとらえ方が甘い感はある。最後に、性転換するという世界を主人公がひっくり返すべく画策するところで終わるが、さすがに少々安易。読み手に身近に感じられる主人公を設定し、SF的な世界設定をした場合の難点だろう。世界を動かすような力を持たせた人物を主人公に据えると、納得はいくが読者の共感は弱くなる。そのバランスというのもが重要で、その点では特に最後が甘い。最後の章はない方がすっきりしてよい感じもするのだけど。
さらに、なぜ憧れていた佐々木先生が失敗策のBGであったということだけで、とくに事件に対して深く関わっている訳でもないのに、再び隔離されるような形で主人公の前から消えねばならなかったのか、その点はひどく曖昧だ。
更にもうちょっと突っ込むと、主人公がBGに変化しそうなのははじめの方からかなり濃厚ににおわせているし、最初の方では優等生の姉をもつのんびり屋の妹、ってスタンスで書き初めている割には、偉く頭脳明晰。また、姉の優子さんがなぜ妹に対してコンプレックスを抱くような感で無理に男性化を目指したのか、その辺も書き込みがほしかったかも。
とはいえ、全体としてはよく練れているし、読みやすいし、大風呂敷(つか中風呂敷?)もきちんと畳まれたので、まずまずの出来といところ。これならSF者だけでなくて、その境界の人々にも読んではもらえそうだ。
ただし、個人的には表紙(文庫)だけはいただけません。人前でカバーをせずに読むのはちと恥ずかしくなってしまうので、もうすこし改善を希望。