時間封鎖
何となく本を見たくなって、本屋でこれをみつけて買ってみた。
- 作者: ロバート・チャールズウィルスン,Robert Charles Wilson,茂木健
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2008/10/31
- メディア: 文庫
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- 作者: ロバート・チャールズウィルスン,Robert Charles Wilson,茂木健
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2008/10/31
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ぱらぱらとめくってみて、割と読みやすそうだったのと、「ヒューゴー賞」で買ってしまった。ダブルクラウンでなくても、ヒューゴーだもんねえ。
で、帰ってから読み始め、上下巻を一気に読んだ。そしたら朝の4時だった。
これは確かに、面白い!
全く夜を徹して読むなんて、相変わらず大人のすることじゃあない。読み始めたのは夜の10時を過ぎて、寝る前に少し・・、と思っただけなんだけど、読みやすいのでさくさく行って、しかも飽きなかったのだ。
ある日、地球は「膜」に覆われて、その中の時間はひどくゆっくりになる。空に星は見えず、しかし外の宇宙の時間は急激に進み、太陽が無くなるとき、地球も滅亡せざるを得ない。それは本来なら50億年といった恐ろしく遠い未来だったはずなのに、恐らくは4・50年でそれが訪れる時、人はどうするか、という話。
そう書くと、ばりばりのハードSFみたいな感じだけど、実際には事態を打開するべく必死に動く天才ジェイスンとその双子のダイアン、彼らと乳兄弟としてタイラーの3人の物語として進むので、読みやすい。SF的な設定を除けば、この雰囲気はキングのスタンド・バイミーみたいな感覚だ。明るく、乾いた風の吹く、セピア色の景色。あるいは、ハインラインの世界。あるいはダイアンをずっと思い続けるタイラーはフォレスト・ガンプかも。
物語は回想として進む。子供の頃にその瞬間を見たこと。そして、火星をテラフォーミング仕様とし、成功したかと思うとまたその火星さえも膜に覆われてしまう。問題に対し、解決できたか、と思うと次なる問題が現れ、なかなか構成的にも良くできている。だから飽きない。そして、最近の作品としては珍しいほどに、等身大の人間がよく書けている。社会の変化もさりげなく描かれて、判りやすい。これは、上手い。
文句を言うなら、あまりにも登場人物として残っていく人が少ない。本を置いてしばらくすると、頭の中にはジェイスンとタイラーとダイアンしか残らない。またダイアンがあそこまで宗教にのめり込んでしまうのは、ジェイスンと双子なんだったら、ちょっとあり得ない気もする。それから、アメリカ以外の国の、世界の動きがややステレオタイプ。また、主にタイラーの目線で描かれ、タイラーが一途でとてもいい人という設定なので、怒りや嫉妬といった感情が弱い。だから、少し人物造形的に弱くないか?というところはある。でも、それは、アメリカを舞台としていて、私はそこに行ったこともなく、だからリアリティーが弱いうように感じるのだけなのかもしれない。
とケチをつけられなくはないとけど、一気に読ませる筆致と、(若干ご都合主義っぽくはあっても)ユニークでよく考えられた設定は高いレベル。膜に覆われ遅く流れる時間、それを利用して始めて成り立つ火星のテラフォーミングといったハードSF的な部分もあり、一方で寿命を延ばして大人の後の第四期へと人を変化させる薬剤や宇宙にあって始めて活動するレプリケーターといったバイオ系のネタも取り込みつつ、マクロもミクロも全てを取り込んで広げた大風呂敷を奇麗に畳んでしまう手腕はなかなかのもの。
と言うことで、本の帯に「ゼロ年代最高の本格SF」とあるのもあながちハズレではないかも・・・。
2009年度の星雲賞の外国作品部門に出てくるかな?