「冬の薔薇」
マキリップの最新作読了。
- 作者: パトリシア・A・マキリップ,原島文世
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2009/10/20
- メディア: 文庫
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と言っても、発行は10月。でも近所の本屋にはなくて、正月休みに高松まで行って買ってきたものだ。本屋には、オドの魔法学校 (創元推理文庫)も茨文字の魔法 (創元推理文庫)もある。けれど、これだけは無いというのは、売れているからなのか?と読了して思ってみる。
マキリップとしては単純な構成のファンタジーなのだけど、一気に読める。最初の方は、主人公のロイスの口調がやや砕け過ぎていて、マキリップらしい硬質でありながら繊細にきらめく表現に対して違和感があったけれど、次第に夢と現実の境界を漂い続けるような世界に引き込まれた。民間伝承の「タム・リンのバラッド」を下敷きにした端正なファンタジーであると同時に、詩情あふれる世界が魅力的。
で、元となった「タム・リンのバラッド」がそうであるように、最後はハッピーエンドで終わる。裸足で森を駆けめぐっていたいた野性的で不安定な少女は、靴を履いて周囲の人への配慮もできる大人になり、最後には王子様たるコンラッドと結ばれそうだ。そういう所は、若干不満。良識のある大人には決してなり得ない、森から離れられない嵐のような自分をそのまま受け入れ、受け入れられるという選択の方がマキリップらしいと思う。
自分を更に言えば、なぜ向こうの世界の女王はコルベットを手放そうとはしなかったのか判りかねるし、コルベットが向こうの世界から戻りたいと思った理由もやや説得力にかける。ロイズの視点が中心なので、そういう他の登場人物の心情はわかりにくく成っているかもしれない。
けれど、何より「冬の薔薇」のタイトル通り一冬の物語なのだけど、どこかコニーウィリスのドゥームズデイ・ブック(上) (ハヤカワ文庫 SF ウ 12-4) (ハヤカワ文庫SF)のシーンにも似た静かな雰囲気がいい。人がいて風が吹き荒れていても、ひたすら静かだ。
「ドゥームズデイ・ブック」では、雪の中1つの集落の全ての人は、チフスで一人また一人と死んでしまう。最後の方で一口囓った林檎を取り落として少女が死んでしまうシーンは忘れられない。
これを読んでいると、それと同じように、白い雪にどこまでも覆われた真っ白な農家
その白い窓の外をひたすら眺めるローレル、そんなのシーンがすぐに浮かんでくる。そして、森と。
だからやっぱり、好きは好きだな。
と言うことで、この作品の現代物の続編というのも、読みたい。東京創元社さんヨロシク。