イヌの幸せ
我が家のイヌは食い意地が張っていて、美味しいものには目がない。特に最近は老犬の健康を考えた「アガリクス入りのジャーキー」だとか「高麗人参エキス入りのジャーキー」だとかを食べている。けれど、いくら優しくはあっても貧乏な飼い主がそんなものを飼ってやるはずはなくて、これはもらい物なのだ。お茶を一緒に習っている友人からもらったものだ。
友人宅にもやはりイヌがいる。今年8才になる白のラブラドールである。
「最近うちのイヌってば年とってねえ、目も耳もとおなってんのよ。」
と我が家のイヌの話をしていたとき、彼女もそれに合わせて言っていた。
「うちもで。こないだなんか、よたよたして溝に落ち込んだんで。」
ちょっと、不思議だった。いくら何でも8才でそんなになるだろうか。大型犬は確かに寿命は短いけど、それにしても10才以上は生きるはずだと思った。
そしたらそれからしばらくしてお茶で一緒になったとき、彼女からこう切り出された。
「イヌの健康用のドッグフードあるんやけど、いらん?」
「どしたん。うちのはもちろん喜んで食べるから、くれるんならそらありがたいけど。」
「いや、実はな・・」
と、話し始めた話はこうだった。
彼女の家のイヌは、最近あまりにもよたついてきたので、獣医へ連れて行ったのだそうだ。そしたら脳腫瘍と診断されてしまったのだという。それも小脳に腫瘍ができていて、運動機能が侵されたのだということらしい。そして、開頭手術をしても死ぬことが多いし、そのままにしていてもやがて死ぬだろうと言われたのだと。
「お医者さんに聞くと、健康食も病気にはええか悪いかよくわからんゆうんよ。それで、うちの犬用にこうたんやけど、多分使わんし、よかったらつこうて。」
ありがたくもらったドッグフードをやりながら、彼女の家のゴンのことを考える。
ゴンは最近とうとう寝たきりになって、明日をもしれない状況らしい。当然何も食べないし、一日おきに獣医へ連れて行っては点滴を打っているという。8才はイヌの寿命としても、やはり短い。けれど、一緒にいた8年という時間は長くもある。ゴンは命は短かったとしても、家の人に愛されて十分に面倒を見てもらえて、多分イヌとしては本当に幸せだっただろう。それでも、死んでいく命を見るのはつらい。
彼女は本当に何事にも一生懸命になる人で、夜もイヌの様子が変わらないか2時間おきに様子を見ているという。
「ダイエットできてしもてなあ、これだけはちょっとうれしいわ。」
と、笑ってみせる彼女を見ながら、本当に彼女に飼われてゴンは幸せだったよな、と思う。
我が家のマルクは今年15になる。いずれマルクだって死んでいくのだけど、その看病は大変だろうけど、家の中で、安心して、眠らせてやりたい。そしてきっと、一番遊んだ山に埋めてやりたい。
「まあ、本当に幸せなイヌやったねえ。」
と、いえるように・・。