hyla’s blog

はてなふっかーつ!

「親なるもの 断崖」


 ふと思い立って、本棚からこれを取り出してみた。 最近この作品が、やたらにネットの広告に出てくるので、ちょっと読みたくなったのだ。

 
 私が持っているのは、新装版ではなく昔の古い本だから、もう紙も黄色く変色してきている。雑誌掲載後、コミックスになっているのを見つけて購入したから、当たり前。その頃でも、私はもうコミックスはあまり買わなくなっていたけれど、雑誌掲載時から強烈な印象だったこれは、さすがにすぐに購入した。第21回日本漫画家協会賞優秀賞も受賞しているそうだ。
 
 
 この人の作品は、社会派の結構重い作品が多いのだけど、これは特に重い作品で、面白いとかそういうのとはちょっと違う。昭和の初めに、北海道の室蘭にあった幕張遊郭に売られた四人の少女の一生を描いていて、少女達の歩んだ道はそれぞれ全く違うけれど、それぞれに過酷。姉と一緒に売られた梅は、姉の自殺後11歳で自ら女郎となる。器量よしの武子は、芸子として人気芸者となっていく。器量が悪い道子は、下働きの末、転売せられ女郎となるが、そこで病死していく。
 
 主役になっているのは、そのうち梅で、女郎となった後、恋人ができ一緒に逃げようとするが、連れ戻され、隠し部屋の女郎となる。その後、新日鉄の社員であった大河内茂世に見受けされるが、元「アカの女郎」であったという過去から、強く差別を受け続け、遂に娘である道生を置いて家を出ざるを得なくなる。そして、必死に探す大河内茂世から逃げ続け、ひっそりと病死していくのだ。


 何という人生だろう。何のために産まれたのか?と問う彼女に、私たちは何と答えを返せるだろう。けれど、梅を苛めつつも、孫の道生を全力で育てた姑は、今際の際に道生に言い残す。
 「あの女は幸せよ。お前がいるから、あの女は生きていける。決して母を不幸だとは思うな。お前を産んだんだ。世界一幸せな母親よ。」と。
 梅の娘、道生は、「アカの女郎の子」として、差別を受けつつ、それと戦い、そして世の中の矛盾について必死に考えていく。その道生が、同級生のつくじと結婚し、子供が生まれ、その子に断崖の意味を語るところで物語は終わるから、読み終えてほんの少し明るい気分になれる。
 

 そして、ボロボロになって死んでいった女たちの、血を吐くような叫びを忘れないでいたいと思う。
 「忘れるな!次の時代を生み出すのは、女性だということを。どんなに苦しくても耐え抜いて生きた人間がいるからこそ、次の時代と文化が生まれてきたのだ。その本流は女性だ。本流は女性だ!」という叫びを。
 私たちは忘れがちだけど、今の世の中は、ボロボロになって死んでいった数多の人がいてつくられたものだ。だから、今生きている私たちもまた、必死に自分の頭で考え、どれほどつらくても何があっても、しぶとく最後まで生き続けなければならない。それが、きっと次の時代をつくることに繋がるだろう。
 

 
 この作品では、現代ではあまり明確には語られない差別の様相が、社会の最底辺で生きてきた人々の思いが、漫画という絵による表現によって迫ってくる。絵柄に対する好みというのはあるだろうけど、だれもが一読しておいたほうが良いのではと思う。
 実際、電子書籍になってダウンロード数がすごいらしい。それで、紙の本も再販されることになったとか。

 
 私は個人的に、今販売されている紙の本を、図書館に入れてほしいと思う。公的な図書館や、学校図書館に、ぜひ置いてほしい。今話題になっているからというのではなく、誰かがいつか手に取る時のために、図書館に入れておいてほしい。漫画だし、今では差別的とされる表現も随所にある。露骨な性的表現もあるけれど、それでもこれは図書館に入れるに値する本だと思う。図書館なら、浦和レッズ本や、古い埼玉ラーメンマップではなくて、こういう本を入れてほしい。


 ということで、特に高校生や大学生のみんなは、ダメ元で、自分の所の図書館にリクエストしてみよう。