hyla’s blog

はてなふっかーつ!

変わりゆく


 近くの川の河口へ行った。香川しては、川幅もある川で、いつもは東側で活動しているのだけど、今日はちょっと西側にも下りてみた。

 

 ここには、ゴロゴロとした石が溜まっていて、潮干狩りやらゴカイ堀りの人がたくさん来る。でも、もう時期外れだから潮干狩りの人はいない。おじさんが一人、ゴカイを掘っているだけだ。


 私がまず向かったのは、そんな干潟ではなく、その手前の草原から砂になったところ。ざっと砂の大きさを見て、この辺かな?と思った場所を掘ってみる。すると、中からは小さなものが出てきた。ハネカクシと、小さな丸いものはヒラズイソアリヅカムシだ。ここにもいるのは知っていたけど、今回は掘った場所がよかったようで、昨年採った時よりずっとたくさん採れた。
 でも、そんな砂地には、深い轍が刻まれていて、おそらくウィンドサーフィンやカイトサーフィンをする人が、道具を乗せたまま車で入り込んでいるのだろう。たくさんそんな人が来ると、砂の中の生きものに影響が出てしまいそうで、ちょっと心配。


 一通り砂の生きものを採って、今度は干潟の石をめくってみた。すると、ここでも石の裏からは小さなハネカクシが出てくる。黄色っぽいから、たぶんナギサハネカクシ。ホソナギサかな?これは、どの石の裏にでもいるわけではない。湿り気と下の砂が問題。座り込んで、これぞと思う石をぼちぼちめくっていると、
 「何を採っりょんな?」と、突然おじさんに声をかけられた。
 「こういう、小さな昆虫の仲間を採っているんです。」と、吸虫管を見せると、
 「まあ、ちぃっちゃいんでないなあ。ゴカイを調べよんかと思た。」という。


 そこで話を聞いてみると、おじさんはこの河口でもう50年くらいゴカイを掘っているのだそうだけど、今年になって急に、採れるゴカイが変わったという。
 「今年は、これまでに比べて妙に大きくて、10cm以上あるんが、やたらたくさん採れるんでだあ。ほなけん、誰ぞ韓国のアオゴカイを放したんとちゃうか、言うて皆で言うとるんや。」とのこと。
 
 見せてもらったゴカイは、確かに長くて大きなゴカイだけど、そもそも釣りをしないのでアオゴカイというものを見たことがないし、ゴカイの分類もまったくだめなので、これが本当に外来種なのかどうかはわからない。でも、環境省の「我が国に定着している外来種リスト(暫定版)」という文書によると、アオゴカイ(チョウセンゴカイ)は既に野外で定着しているようだから、ここのゴカイがアオゴカイである可能性はあるだろう。50年ゴカイを掘っているというおじさんの同定は、かなり正確なんじゃなかろうか。
 
 
 
 確かめたいけど、私にはゴカイの同定なんて到底無理。でも、アオゴカイが増えると、在来のゴカイが減少する可能性もあるだろうか?これがアオゴカイかどうかは別にして、とりあえず現状のサンプルだけでも採っておくべきか…。ゴカイの研究者は鹿児島大にいるらしいけど、いきなり送りつけるわけにもいかないしなあ…。


 ちなみに、おじさんによると、最近は河口にイノシシも打ちあがるらしい。昨年も2度ほどあったというから、増えすぎて海を泳ぎ渡ろうとするイノシシは結構いるのかもしれない。
 更に「その辺には、ウサギもおるで〜。誰ぞが飼いきれんようになって、放したんやろういうて言いよんや。」とのこと。

 
 何だかねー。見かけはそれほど変わらずとも、時間とともに生きものはどんどん変化していることを実感する。


 この川の河口の干潟の生きものの調査は、1980年頃に行われた「香川県自然環境保全指標策定調査」のみだろう。あれから、もうずいぶん経っているし、全県的に新しく調査が必要なのは間違いない。けれど、前回の調査では香川大学教育学部の生物研究室が中心になって調査を行っているけれど、その後の組織改革によって、以前は6人いた生物研究室の教官も今はたった2人しかいないし、学生も少ないだろう。地域の生物相の調査・研究は、地味だしお金にはならないけれど、博物館や大学の大事な業務だと思う。博物館のない香川では(理学部もない)、教育学部の生物研究室がずっとその役割を果たして来たのだけど、これからはどうなるのだろう。
 最近の報道では、各県一つの教育学部の存続すらも危ういらしい。生物多様性国家戦略とか言うけど、言うだけで、実態は依然に比べてもどんどん悪くなっているとしか思えない。


 生物相は、良かれ悪しかれ、時間とともに変わっていくものだ。記録されることなく、急激に変化していく自然環境を前にして、私一人で何ほどのことができるのか、と途方に暮れる。調査するには、サンプル缶やエタノール、それに何より時間が足りない!そして、たとえそれらの全てを持ち出しで調査をしても、その標本を管理する場所すらないのが、香川県なんだな。1980年代にも、標本は作っただろうけど、今はもう絶対ないだろうなあ。


 ま、まあ、とりあえず今日採ったものは、ちゃんと標本にしておこう。