hyla’s blog

はてなふっかーつ!

「生命は細部に宿りたまう」


 久しぶりに本屋で、あれこれ眺めてきた。そして、買おうと思っていた本ではないのに、ついつい買ってしまったのがこれ。店頭で手にとって読み始めると、もうそのまま置いては帰れなかった。
 

生命は細部に宿りたまう――ミクロハビタットの小宇宙

生命は細部に宿りたまう――ミクロハビタットの小宇宙

 
 サブタイトルの通り、普通は誰も気にも止めない小さな特殊な環境に暮らす生き物の話だ。石清水の流れる湿崖に生えるコケとそれを食べて育つ小さな蛾、あるいは深い森の中で菌類と共生しながら生きる腐生植物など、普段あまり注目しないミクロハビタットの素晴らしさを、丁寧に語っている。文章は、簡潔明瞭でいて、叙情性を帯びていて、一気に読める。

 
 
 私は割と頻繁に海に行くので、特に「波くだける礫浜」「潮流がつくる砂堆」といった章が印象に残った。

 
 私のよく行くこの辺の海岸は、厳密に言うと、ほとんどが礫浜だ。こぶし大の玉石が集まる海岸だけでなく、地元では砂浜と呼んでいる海岸も、粒子の大きさは2mm〜4mmの細礫が主で、本当の砂は海岸でもごく一部にしかない。
 けれど、そんな礫浜を丁寧に見ていけば、礫の間にはミミズハゼや小さなハネカクシや鮮やかなオレンジのジムカデや潮間帯にしかいないワラジムシなどがどっさり隠れている。何の基礎知識もなかったけれど、何度も海岸を調べていくことで、砂浜ではなく礫浜だから間隙が生まれ、その間隙を利用する多様な間隙性生物が見られるのだと、私にもようやくわかってきた。
 
 
 だから、「波くだける礫浜」を読めば、その礫浜がどれほど貴重なものなのかを知り、そこにいる生き物をもっともっと知りたくなる。本では、礫浜に生きる貴重な生物としてミミズハゼを特に取り上げている。この辺にもミミズハゼはいるけれど、何と言う種類なのだろうか?何種類くらいいるのだろうか?
 

 そして、「潮流がつくる砂堆」では、その海岸とそこに生きる生物を支える砂を、私たちが如何に安易に採ってしまったについて、丁寧に述べられている。海砂採取によって、柔らかな砂堆とそこに生きる豊富な生き物を失った瀬戸内海の荒涼たる海底を、私たちは見ない。だから平気な顔をしていられるのだけれど、こうやって淡々と指摘されると、何万年もかけて堆積した砂をわずか40年で使い尽くした事に、その取り返しのつかなさにただ悲しくなる。
 昨日の台風でも、海岸の砂がごっそり持って行かれたけれど、ずっと以前は台風といえどもここまで砂が無くなることは無かった。多くの場所で海岸はやせ細り、それを防ぐ為に離岸堤が作られている。それでもこれから先、渚が本当に維持出来るかどうかはわからない。
 

 
 美しい渚も、平野の氾濫原も、草原も、玉石河原も、ここに述べられた貴重な生き物の世界の多くは、私たちの欲望の為に、今はほとんど失われて無い。ならばこそ、それを知って何もしないではなく、何かしら出来る事をするべきだと思う。
 
 私は、今の生き物の有り様を記録にとどめておきたいと思う。だから、同定できなくても、そこにいるものを知るために、とにかく今採っておこうと思う。