hyla’s blog

はてなふっかーつ!

大阪へ行くキツネ

 

 昨日の午後のこと、とある方から電話があった。仮にMさんとしておこう。同業者であるMさんの専門は甲虫で、コガネムシ大好きな人だけど、その他の生き物情報にも詳しい。

 突然の、そのMさんからの電話はというと、
 「実は、近くの国道でキツネが死んでたんだけど、いる?何か、もったいないと思うんだけど、もう埋めよんや。頭骨だけでも、欲しい?」というもの。


 キツネだとーーーーーーーー!


 それは、珍しい。それはレアだ。私はキツネは拾った事が無い。つか、香川県でキツネって、そらかなり珍しいぞ。

 実際、香川県の1980年代の調査では、キツネは居ない事になっている。細々と、香川にもキツネがいるらしい、死んでいた、という情報は漏れ聞くのだけど、きちんとした報告は多分されていないはずだ。
 それにキツネは、タヌキほど里に下りてくる動物ではない。少なくともこれまでは。どちらかと言うと、山の周辺部の草原などで、食べるのはネズミなんかの小動物のはずだ。だから、居ても眼にすることが少ない動物の一つだ。
 


 それが死んでるって?
 それを埋めるって?
 もったいないにも程がある!


 とは言え、転勤してしまったので、今の私では引き受けられない。保存する冷凍庫はないし、自宅ではさすがに処理できない。地元大学に哺乳類の先生が居た頃には、屋上近くに大型冷凍庫があった。けれど、もうその先生も退官されて名誉教授だし、冷凍庫も、今もあるのかどうかわからない。それに何より、標本を作っても、それを保管するところが、香川にはない。


 と言う事で、
 「それはぜひ、掘り出して大阪市立自然史博物館へ送って下さい。あそこは、必ず引き受けてくれます。腐乱していたらしょうがないですけど、そのまま埋めるのはもったいないです。」
 と勧めた。いくつかのやりとりの末、そのキツネは無事、大阪市立自然史博物館に送られたそうだ。
  
 
 香川にもキツネはいる。
 けれど、自然史博物館はない。

 
 だから、こんなデータが、標本が、公式記録として香川に残らない。

  
 私は、イノシシやシカが増加してきた今、キツネも増加していておかしくはないと思う。山間の休耕田などは、遷移の過程で一時的に草原になる。また、増えたイノシシはたくさん捕獲されているけれど、その大半はそのまま埋められたり、埋めるのは面倒だから、場合によってはそのままこっそり山の薮に放り込んで放置していると聞く。ということは、肉食の動物にとって、餌は増えているはずだ。なら、キツネも、数が増えていておかしくはない。
 一番その辺のデータが入っていそうなのは、県庁の環境森林部 みどり保全課 だろうけど、それを報告する人はいない。だから、時代と共に変化しているのかどうかは、わからない。また、今あるデータだって、いつまで正確に記録され続けるのか。一般的な報告と同じく、5年の保管期限を過ぎれば、削除されてる可能性すらあるだろう。 
 記録が残らなければ、後で誰かが調べたいと思った時にも、それはもうわからないのだ。


 博物館があれば、情報の核としての学芸員がいれば、香川県にも細かな生き物の情報を知っている人はたくさんいる。博物館をつくるのに、一体どれほどの大金がいるというのだろう。古い建物の使い回しでも、とにかく標本を所蔵するところと、それに何より正規雇用学芸員。歴史博物館とか作る前に、自然史博物館だろうに。

  

 香川に、自然史博物館はない。
 そして、キツネは大阪へ行った。