目覚める
朝から、異常に暖かい雨の日だった。4月上旬なみとかで、こうなると勤務先の建物は、冷えたコンクリートに結露して、どこもかしこもべたべたになる。
余りの暖かさに、少し汗さえかきながら仕事をしたけど、でも本当は仕事なんか放りだして、山へ行きたくてたまらなった。こんな日には、決まってヤマアカガエルが目覚めて産卵をする。私のよく行くところでは、だいたいいつもこの時期。きっと山へ行けば、カエルが跳ねているはずだ。脚が長くてスマートなアカガエルたちは、繁殖期特有の強い赤色を帯びて、水辺の浅い所でメスを待ち構えて居るだろう。谷間にはきっと、ニワトリの鳴くような「コッコッコッ…」という声が木霊しているだろう。
そんな事を考えると、仕事なんかしている場合ではない!とか思ってしまうけれど、やっぱり仕事しないとね…。
夜になって、同僚から「捕まえましたよ。」と、こんなものをもらった。
アブラコウモリ。建物の中を、飛んでいたのだそうだ。
私の勤務先の建物は、築50年のコンクリート作りの建物なので、隙間にはたくさんのアブラコウモリが住んでいる。暖かい時期には、夕方建物から飛び出て、薄暗い中飛び回っている姿をよく見るし、目立たない所に大量の糞が積もっていたりする。その糞のぶん、不快害虫となる、小さな昆虫を食べてくれているのがアブラコウモリだ。
もらったコウモリは、この余りの暖かさに目覚めてしまったのだろう。そっと握ると、思ったより暖かで、そのまま窓の外でしばらく手の上にのせていると、やがて飛んで行った。上手く、塒に帰れると良いな。
勤務先の建物は、来年度の終わりには、立て替えの為に取り壊されることが決まっている。一体どれほどのアブラコウモリが住んでいるのかはしらないけれど、彼等はみんな一年後には住処を失うのだ。それを考えると、少し切なくなる。でもきっとたぶん、どこかまた新しい住処を見つけて、彼等はしたたかに生き続けるのだと信じていよう。