「スズメの謎」
- 作者: 三上修
- 出版社/メーカー: 誠文堂新光社
- 発売日: 2012/12/01
- メディア: 単行本
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これを読んだ。しばらく前に、スズメの数が減ってきている、と言う事が話題になったけれど、その元になった調査を行った方の本だ。ただし、この本では、鳥の研究者である筆者が「科学の立場からスズメという鳥について、誰も知らない答えを見つける方法を紹介」している。
この本で述べられている著者の研究の結果は3つだ。
・繁殖期の巣の数を数えた調査から、全国的なスズメの数は、繁殖期の親鳥の数で1800万個体と推定されること。
・スズメの数は1990年から2010年までの20年で、恐らく半減していること。
・その理由のひとつとして、1回の繁殖の1巣あたりの子スズメの数が減っている(商用地で1.41、住宅地で1.81)こと。
スズメは身近な鳥だから、そのスズメの数が激減しているという調査結果そのものも興味深い。けれど、この本の魅力は、それらの調査をどのようにして行ったのか、それは何故なのかを丁寧に説明してくれている点にある。
例えば著者は、個体数の推定を行うために、可能なやり方として繁殖期の早朝に巣を数えることでスズメの数を推定することを決め、熊本、埼玉、秋田の3県で商用地、住宅地、農村、大規模公園、森の5つの環境ごとに2〜3地点で巣を数えている。そして、各県にそれらの5つの環境がどれくらいあるかから、全国のスズメの巣の数が約900万で、繁殖期の親鳥の数では1800万のスズメが現在いるであろう、と推定している。
これを読むと、科学的に観察するために必要な事がよくわかる。特に、予備観察として、調査する範囲を500×500mの範囲と決め、それを調査する時間を約5時間としたとき、それでどれくらいの見落としが生じるか、調査後更に2週間観察して見落とし率は10%とかなり小さい事も確認している事を知り、さすがに抜かりはないなと感心した。
それは、その後の研究でも同じで、スズメが減少しているかどうかについては、自由学園(東久留米市)の40年あまり続く測定データやスズメによる農業被害、有害駆除羽数、狩猟羽数、自然環境保全基礎調査記録、鳥類標識調査記録について調べているが、それぞれの単独データだけだと、どのような偏りが含まれていると考えられるか、その点の記述が興味深い。
更に、減少の理由を探り出すことはなぜ困難なのか、本文やコラムで述べられている文章には思わず、「そうよ。そうなんだよね〜。」と、大きく頷いてしまった。
そして恐らく筆者が一番伝えたかったのは、p138の章タイトルにもなっている「世界は本当に不思議であふれています」ということ。世の中で、既にわかっていることなんてごく一部の事にすぎなくて、わかっていない事の方が圧倒的にたくさん。そして、そのわからない事を明らかにする事は、とても楽しいからまずやってみよう、と言うこと。
確かに、何かを明らかにすることの楽しさは、自分で何かを調べる体験をしてみなければわからない。私も大学の時、当時の先生から同じ事を言われたけれど、本当にその言葉の意味がわかり始めたのは自分でいろんな事を調べ初めてからだ。
この本は、文章から察するに、小学生高学年から中学高校くらいの子どもを読者として主に想定しているのではないかと思うけれど、大人が読んでも十分面白いし、課題研究に取り組む高校生や卒論に取り組む大学生などにはとてもオススメ。是非実際に研究を行う前に、まず自分で読んで欲しい。
そして、対象は何でも良いから、自分なりに科学的と思う方法で何かを数えてみて欲しい。多分それはとても大変。
それでも、それをやれば、何かを明らかにすることが如何に難しいか、そして楽しいかわかる。そして、「B型って変だよね〜。」なんて言われた時に、「それって、どうやって測ったデータでそう言えるの?」と突っ込みを入れられるようになる。
そして、世界が明確になりながら広がっていく楽しさを知ることができるだろう。