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「 世界を変える日に」


 

世界を変える日に (ハヤカワ文庫 SF ロ)

世界を変える日に (ハヤカワ文庫 SF ロ)

 
 本の帯には、「「たった一つの冴えたやり方」の純粋さで「わたしを離さないで」の衝撃を描き出した近未来フィクション」とある。でもって、アーサーCクラーク賞受賞だし、それなら読んで見ようと思って買った。「たった一つ」はねえ、何度読んでも泣くよね。だから、もうわくわく…。


と言う事で、早速買って読み始めたのだけど、読むにつれて何となく微妙。

 
 ええと、 ある日、MDS(母体死亡症候群)なるウイルスが発生し、世界に蔓延する。このウイルスは罹患してもどうと言うことはないが、このウイルスに罹患した女性が妊娠すると、女性はクロイツフェルト・ヤコブ病と同じような症状が生じて、短ければ数日で死んでしまう。ので、人類には子供が生まれなくなってしまった。その時、16歳の主人公の少女ジェシー・ラムは、MDSに対するワクチン処理を施した胚を育てる眠り姫(代理母)の事を聞く。ただし、それに志願する女性は、MDSのウイルスにより脳が破壊され、眠り続けながら死んで行く事になる。その時、ジェシーはどうしたか…。

 
 と言う話で、ここまで書けば当然ジェシーは眠り姫となって子供を産むことを選択するってことは推測出来てしまうわけで、するとなぜ彼女はそうしたのか?と言う事がメインテーマになる。けど、読んでいて16歳としてもかなりエキセントリックでな少女が、思い込みによって周囲の反対を押し切って実行したようにしか読めない。また、父親と同僚の医師は、両親の反対を押し切って病院へ来た少女が代理母となることをどうして簡単に認めるんだろう。そして、それだけの筋書きで、この長さは如何にも長い。せいぜい中編で良かったんじゃないかな〜。

 

 「たった一つの冴えたやり方」では、主人公が気づいた時には選択の余地は無かった。悪気はなくとりついてしまった異星人を、友人として受け入れ、けれどその友人がどうしようもなく暴走し自分をも破壊すると、それは更に同様の悲劇的遭遇を増やすだけと知ったから、だから自ら太陽のまっただ中に突っ込んでいくのだ。そして、そのことを送られてくるメッセージビデオで後から知るしかない両親の周囲の人の、その切なさよ。そんな、 真っ直ぐ明るく素直な少女の勇気が、短いページの中に凝縮されていて、だからただ泣くしかないし、だから自分も勇気を持って正しい選択をしたいと思わせる。


 けれど、ジェシーには他に選択が一杯あったはずだ。未来が無いとわかっている世界を生きる事は、単に眠り姫となるより、もっとつらい。そのつらさを逃げてヒロインになろうとしているようにも見えるんだよね。誰かは死なねばならないときに、自ら真っ先に死んで行く事は確かに勇気。でも、多分腑に落ちない感じは、設定の強引さと、主人公の多分にエキセントリックな雰囲気によるんだと思う。



 と言う事で、読みやすくはあったけれど、何だか微妙な本だった。


 
 この本の原題は「The testament of Jessie Lamb(ジェシー・ラムの遺言)」なのだそうだ。「世界を変える日に」ってタイトルは、あんまり語呂も良くないし、覚えにくいし、絶対原題直訳の「ジェシー・ラムの遺言」の方が合ってて良いと思うんだけど…。