hyla’s blog

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「パワーエコロジー」


これを読み終えた。

パワー・エコロジー

パワー・エコロジー

 読みたいと思いつつ何となく購入のきっかけを逃していたら、ひょんな所から頂いた。有り難いことである。
 で、ゆっくり読み進めて、とても面白かった。生態学では大変有名な東正剛先生という方の退官に合わせて、その教え子達によって出版された本で、研究室での想い出や研究内容、現在の活動などが紹介されている。


 私は、東正剛さんの名はだいぶ前に読んだ地球はアリの惑星 (シリーズ〈共生の生態学〉 (3))という本でアリの研究をされているらしいとだけ知っていたけれど、その人となりなんてさっぱり知らなかった。
 東先生のご専門は生態学でアリの専門家だけど、本当にやりたいことがある学生は、アリでも何でも受け入れているようだ。だから、ここに出ている人達の研究対象は様々。アリやハチ、蛾といった昆虫類だけでなく、クマムシからイトウにテングザルにエゾジカや鳥類、果ては藻類まで。また研究場所も様々で、北海道だけでなく、アフリカやボルネオ、南極にだって研究生を送り込んでいる。その縦横無尽の活躍ぶりは、まさしく地球規模。
 そして、「頭はついていればいい。中身は後からついてくる。」「生態学は体力と気合いだ。」と学生を鼓舞し、今様々な分野の第一線で活躍する人材を育てている。
 


 きっと多分、そんな東先生の学生に対するその要求水準は恐ろしく高い。(実は学生の適性・能力を考えた上での周到な計算に基づいてだけど)何のためらいもなく、世界水準の要求をつきつけるのだと思う。けれど、必ず達成できる目標としてその高い水準を当然のように示されるから、学生も先生の言葉を信じて一心に努力するだけで良いし、その中で力をつけ、実績をあげ、それにより自信を持ち、そして自らの人生も切り開いていったのだろうと思う。



 実際、ここに登場する人々の研究について読んでいくと、さらりと恐ろしい事を書いている。

 

 例えば、アリの巣の構造を知るために、硬いオーストラリアの大地で1m以上もの穴を掘るかと思えば、5mmのアリに3色の塗料を用いて標識をする。あるいは、ヒグマの闊歩する大地で、絶滅危惧種の淡水魚イトウを採集し、標識し、その繁殖行動を観察し、更には水の中の産卵床を掘って卵の数を確認してそれをまた埋め戻す。日中でも氷点下の屋外で一日中タンチョウの数を数え、3000枚を超える葉の中の小さな蛾の幼虫を観察し、アリを探して折りたたみ自転車で400kmを走破する。ちょっと想像すればすぐに、とんでもない労力と時間をかけていることがわかる。まさしく、パワーによるエコロジー

 
 そして同時に、時には氷点下になるすきま風だらけのボロ家や雨水の流れ込んでくるテント、あるいはアフリカの天井一面に蛾のへばりつく掘っ立て小屋で生活しているけれど、彼等はその選択を後悔してはいないだろう。研究だけを考えて、困難があっても研究にひたすら取り組む日々は、誰しもができるものではないけれど少し羨ましい。

 
 そして、ここにはいろんな失敗談も書かれている。これでばっちり、とわくわくしながらモズにデコイを見せてもモズは無反応だったり、イトウの産卵期に交通事故をして、データがとれなくなる。けれど、彼等は諦めない。しぶとく、また新たな手を考え、復活する。そこがいいなと思うし、それが大事だと思う。
 一から十まで細かく方法を指定されて、その通りに作業するだけならそれは研究ではない。もちろん指導はうけながらも、自分で考え、やってみて、失敗したり努力の割りにはショボいデータにがっくりしたり、あるいは隣の席の人に先を越されて一代の不覚と落ち込む。その過程は、一見効率が悪いようにも見えるけれど、けれどそれこそが人を強くするし大きく成長させる鍵となる。人は失敗しながらでしか、成長できない。東先生は、時には毒舌をはきながら、励ましながら、そんな学生を信じ見守り、成長を待ったのだろう。
 

 けれど、致命傷となる失敗はないように見守りつつ学生を鼓舞しても、きっとがっかりさせられるような事も多かったはずだ。研究に対する姿勢については一流に厳しい研究室だろうから、ひょっとしたらついて行けない学生もいたかもしれない。それでも信じて待ち、ここに登場する若者達が成長していくその姿を見ることで、東先生も彼等からエネルギーをもらって更に高い目標を掲げて走り続けられたのだろうと思った。


 そして、かつて東研究室に所属した人々は、今はそれぞれの道で、やっぱりパワー全開で頑張っているようだ。生活できることは大事だけど、それ以上に水面に飛び跳ねたイトウの一瞬の光景の為に、在来種を駆逐するアルゼンチンアリへの驚きのために、フィールドに出て生き物を追いかけている。

 



 「くっついているだけの頭」でかまわなくて、「体を動かす」だけなら、私にだってそれは全くできないことじゃない。それが大きな勘違いだとしても、他人からどれだけバカげて見えたとしても、イタイ奴でも、そう思って行動してどんな悪い事があるだろう。ちょびっとでも何かをすることは、何もしないよりは、ずっと良い。「研究」というほどにはできなくても、ほんのささやかでも、できることはある、と思う。つか、思いたい。


 
 だから、明日も外に出かけたい。のだけど、明日は台風なんだよね。
 わずかしかない休みだというのに…orz。