hyla’s blog

はてなふっかーつ!

「サイチョウ」

 今日はこれを読んでいた。

サイチョウ―熱帯の森にタネをまく巨鳥 (フィールドの生物学)

サイチョウ―熱帯の森にタネをまく巨鳥 (フィールドの生物学)


 これまたフォールドの生物学シリーズで、こちらは熱帯に住むクチバシの上にコブを持つ大型のサイチョウという鳥の種子散布の研究の話。この方の文章は以前に「種間関係の生物学」でも少し読んだけれど、こちらではもっとわかりやすく丁寧に研究の概要とその日常風景が綴られている。
 
 
 熱帯に憧れていた著者は、熱帯での調査ボランティアや、タイでの「西太平洋国際野外生物学コース」のサイチョウの調査での経験から本格的に院に進んでサイチョウの研究を始める。サイチョウの研究は、それまでにもある程度は進んでいたようだし、サイチョウを研究する体制も既にあったようだけれど、それでも植物や動物の種類などの森の事を何も知らない者が研究できるようになるまでには多くの困難が伴うことは間違いない。
 著者は、十分に文献を読み込んで準備すると同時に、一日12時間の観察を続けるなどして地道にデータをとり続ける。更にサイチョウの種子散布者として働きを調べる際には、アグライアとカナリウムという2つの植物に的を絞り、サイチョウ以外も含め全ての種子を食べる動物を調べ、ネズミなどが地面に落としていった種子の持ち去り過程や発芽の様子などを、自動撮影や持ち去り実験を行いながら調べこんでいく。
 その研究の過程は、実によく考えられているし、何より考えた計画を元にきちんとデータにしているところがすごい。特に野外での生物の観察・実験では、考えていたとおりに上手くはいかないことも多い。著者の場合も、自動撮影装置をゾウに壊されたり、種子が実ってもうまく種子散布者が食べに来ないなどの事もあったようだけど、その都度工夫して論文になるだけのデータを得ている。


 こうしたスマートな行動ができたのは、もちろん京大の大学院という、指導者、友人、研究環境など、どの面でも非常に恵まれた環境にあったことと無縁ではないだろう。けれど、そうした環境に身を置くことが出来た事もまた、著者自身の力だし、何より大量のヤマビルに吸い付かれ、ダニまみれになりながらも目的を完遂させることに全精力を注ぐことができる、その才能はこれぞ一流って感じだ。




 本の最後には、「フィールドワークのすすめ」として、フィールドワーカーを目指す人がどのような力をつけていけばよいのか書かれている。私は特にその中で、「専門知識を学ぶときには、講義や映像、本などで学んでいくけれど、学んだ事を自分のものとして理解するには実際の現場での体験がかかせない。」という指摘が印象に残った。
 
 
 現在、しんどいフィールドワークを希望する学生は減りつつあるらしい。けれど、フィールドに出て実際体験することで知識が使えるものになっていく過程は、とても楽しいものだ。更に、様々な生き物が急激に減少している今の時代は、フィールドの生物学が出来る人材はどれだけいても十分ではないと言えるのではないか。
 だから、このシリーズを読んだ若者の中から、一人でも二人でもフィールドを志す人材が育って欲しいと思う。



 と言う事で、若者がちょっと手に取にとってみる、そんな機会を増やすべく、図書館にもリクエストしておこう。