hyla’s blog

はてなふっかーつ!

上田早夕里づくし


 「華竜の宮」が結構良かったので、これもお借りして読んで見た。

ラ・パティスリー (ハルキ文庫)

ラ・パティスリー (ハルキ文庫)

ショコラティエの勲章 (ハルキ文庫)

ショコラティエの勲章 (ハルキ文庫)

菓子フェスの庭 (角川春樹事務所 ハルキ文庫)

菓子フェスの庭 (角川春樹事務所 ハルキ文庫)

 
 SF作品しか読んでいなかったけれど、こちらもなかなか良い。いわゆるラノベっぽい雰囲気もあるのだけど、登場人物の心情が丁寧に書かれていて、ほんわかと恋愛心情がえがかれていても、単純な恋愛物語になるわけではない。特に最初の「ラ・パティスリー」は、ライトミステリー?とも思える導入だったけれど、実際には洋菓子職人として奮闘する人々の物語で、その成長過程がきちんと描かれているので、単なるだらだらした物語にならずにどんどん読める。
 恐らく、作者は最初にちゃんと物語の骨格をきちんと決めて書くんだろう。だから、特にどうこういう物語があるわけではないけれど、その流れを気持ち良く楽しめる。それに文章も読みやすい。


 そして何より、この作品群はそこに出てくるお菓子の描写がいいなあ。これを読んでいると、そこに出てくるお菓子はどれほど綺麗な、そしてどれほど美味しいスイーツなんだろうと思ってしまう。私の住んでいるところは本当に小さな田舎町なので、昔からある洋菓子も和菓子もつくるお店が二軒あるだけだ。だから、たまにデパートの地下売り場などで見るお菓子は、本当に綺麗でわくわくする。食べたい、と言うよりもっとこう、綺麗な花を愛でるように、繊細だったり華麗だったりする小さなお菓子を手にしたくなる。
 小さいけれど美しいそれを、食べる前にじっくり眺め回し、そっとスプーンを入れて最初の一口を味わう。その瞬間の何と楽しいこと。
 そういえば、先日のレストランの最期に出てくたアイスクリームも美味しかった。表面にそっと置かれたカラメルをスプーンで割って、コーヒー味のアイスと共に食べる。てっぺんにちょんとのせられた緑のミントと共に食べると、つんと香りが立つ。そして、締めはほろ苦いコーヒー。ああ、カワイイケーキを食べたい。ショコラティエが手作りしたチョコを食べたい。


 読んでいると、そういう美味しさを思い出して、スイーツを誰かと食べに行きたくなる。こんな文章を書く作者も、きっとスイーツが大好きなんだろう。体重を気にしながら、でも小説を書くためには実際食べる事も大事、とか言い訳しながらいろんなところを食べ歩いたりしているんだろうと想像した。


 
 私はこういうタイプの作品群はあんまり読まなかったのだけど、これがいわゆる大人向けライトノベルって奴かな?
 多分、同じ上田早夕里の作品でも、これは「華竜の宮」より読む人が多いだろうと思う。これを読んで面白いと思った人が、更に「華竜の宮」あたりにも手を出して、その骨太い物語のおもしろさを感じてSF作品も好きになってくれたら良いだろうな。