拾う。もらう。
職場で廊下を歩いていた。
階段の隅に何か落ちているのが見えたので拾ってみると、これだった。
手に持って眺めていると、通りかかった女の子が
「何見よるんですか?」
と聞いてきたので、
「これ。」
と、見せた。
その途端、
「きゃーーーーーーー。」
と、それはそれは大きな悲鳴を上げて、一気に走り去っていった。
唖然…………。
仕事が終わって、机の上にそっと置いておいたそれを、じっと眺めてみる。少し大きめで、地味な色合いだけど、知ってる。これは、下翅に鮮やかな色を持つ蛾だ。シタバ亜科だ。死んで時間がたっているようで、もう硬くなっている。これで無理矢理、翅を開くと壊れてしまうだろう。慎重にそっと開いて、わずかに覗き見えた下翅には、綺麗な青が見えた。
帰宅して、書棚の古い保育社の蛾類図鑑を開く。大型の蛾は下巻だ。ぱらぱらとめくって、すぐにわかった。
フクラスズメ。スズメガでもないくせに、スズメという名のつく、ヤガだ。
そういやそんな名前だったな、と考えながら、ついでにぱらぱらとページを繰って、いろんな事を思い出す。
小学校の頃、枯れ葉と間違えてつかんで、いきなり動き出して驚かされたのはアケビコノハ。
網戸に飛んできて、捕まえた私の手の中で鈍く金色に光る卵を産んでくれたヤママユガ。
初夏の濃い緑の中でひらひら飛んでたウメエダシャク。
暑い夏が終わり、風に冷たさが混じる頃、街灯の下に止まっているクスサン。
そして何より、森の中で見た、羽化したての薄緑のオオミズアオの美しさは忘れられない。
思い出の中に、様々な蛾がいる。
けれど、そんな事を言って、共感してもらうことはほとんどない。言えば言うほど「変な人」なんだな。とうに諦めて、もはやネタとして使うレベルの悟りの境地に達してはいるのだけど、時にふと寂しくなる。
蛾でも甲虫でもハチでもアリでも、たかが虫けらではあっても、皆それぞれ美しく巧妙なのに、それを口に出せば「変な人」なのだ。普通でありたければ、それは言ってはならないことなのだ。悲しいね。
ま、とは言え私の場合、どうせ隠そうたって隠しきれないので、最近はオープンです。ネタです。
そしたら、こんなものをもらっちゃいました。
オオフタモンウバタマコメツキ。
でっかいね。