hyla’s blog

はてなふっかーつ!

山笑う

 木曜日。3時半を過ぎてようやく動けるようになったので、FITの回収に山へ向かった。すると、それを待っていたかのように、雨が降り出して何だかちょっと悲しくなる。雨は好きだけど、野外で活動しようという時に降られるのは、嬉しくない。でも、とにかく行くしかないので、濡れながら山へ入った。


 前回からたった一週間しかたっていないのに、山の雰囲気はずいぶん変わっている。

 


 落葉樹が次々に芽吹き始め、様々に異なる緑の霞がかかったようだ。遠くから見ると、芽吹いた木々はふんわりと膨らんで見える。こういうのを、俳句では「山笑う」というらしい。この時期は、毎日来ても景色は変わるし、芽吹いたばかりの緑を見るだけでも飽きない。


 
 そんな山道を歩いていると、ぶ〜んと音がして、見るとクマバチだった。クマバチは地面の低い所を飛びながら、あちこちをチェックしている。多分、巣作りに適した場所を探していたのだろう。


 
 藪まで来たので、中に入って虫を回収した。肉眼では、特に目新しいものは入っていないようだったので、そのままケースに突っ込む。そして急いで来た道を引き返し、ここら辺と思った場所で慎重に周囲を見回してみた。
 と言うのも行く道で小さな哺乳類の死体を見たのだ。回収もすませたし、じっくり見たい。と思って探すと意外に見つからず、かすかな匂いとハエの動きでようやく見つけた。それは死体と言ってもごく小さく、黒い毛が少し残っただけの平べったい皮だ。大きさもハツカネズミ大だし、頭骨もない。一体何の死体なのか?じっと眺めて、そこだけはほぼ完全に残っていた尾の形状から、多分ヒミズじゃないかな〜と考えた。

 と、そうやって屈み込んで眺めていると、視界の隅に動くものが見えた。え?と思ってみると、いつの間にかセンチコガネがゆっくり地面を歩いているではないか!しかもわずかに緑色がかったとても綺麗な個体。じっと見ていると、センチコガネは地面を歩いて、ヒミズの死体に来て、そこで止まった。それほど強い匂いではないのだけど、匂いに引き寄せられてやってきたのだろう。

 
  




 そっと持ち上げて、眺めて見る。この間のものとは、また色合いが違うし、これは採るべき?とも思ったのだけど、あんまり綺麗で採集するのが可愛そうになって、そのまま離してやった。私は、この地域の虫の種類をできるだけ詳細にきちんと記録したいから虫を採っているのであって、コレクターではない。ましてやセンチコガネは先週も採ったし、これからもFITで採れるだろう。欲張る必要はないのだ。



 
 雨は降り止まず、ずいぶん濡れてしまったけれど、いいもの見たよな〜と何だか嬉しくなる。



 
 そして更に下ってぬた場を過ぎた当たりで、いつものように適当にそこら辺の石やゴミを起こしてみる。石を起こすと、下からは、ゴミムシやアリが出てくるのだ。
 
 ある倒木を転がして、太ったハサミムシやダンゴムシを見ていると、柔らかい土に半分埋まった見慣れないアリに気づいた。トビイロシワアリがすぐ傍にいたけれど、それよりずっと大きい女王アリだ。と言っても、色も真っ黒だしシルエットもトビイロシワアリの女王でない。1匹だけでワーカーも見えない。

 と言う事は、これは婚姻飛行を終えて、これから地面に潜って巣作りを始めようという女王アリ。しかも、こんな春の早い時期に婚姻飛行を行うアリと言えば、クロナガアリしか知らない。これはクロナガアリの女王アリか?


   



 大慌てでそっと捕まえて、持っていた袋に入れて持って帰った。そして、実体顕微鏡で見てみると、確かに羽のとれた後のある、女王アリ。そして、多分きっとこれはクロナガアリだ。



 やったーーーーーーー!


 
 クロナガアリって、飼いたかったんだ〜!クロナガアリなら、餌は草の種子で大丈夫。けれどクロナガアリの巣は深いから女王アリは絶対に掘れない。だから、クロナガアリを飼うには、交尾した女王アリを捕まえるしかない。欲しかったんだよね〜。
 と言う事で、急いで手持ちのプラケースに石膏を入れて飼育ケースをつくり、女王アリを入れて蓋をした。うまく産卵してくれるといいんだけどな〜。




 どれほど忙しくても、やはりこうやって野外に行けば、楽しいものがたくさん見つかる。
 この時期、山も笑うけど、そんな山に行けば人も笑えるようになる。だから、山に行くことは止められない。




 例え、夜8時を過ぎてもやることが終わらず、遂には仕事と共に帰宅することになったとしても…。