hyla’s blog

はてなふっかーつ!

「種間関係の生物学」

 ちょっくらしんどかったので、ぼーっとこれを読んで休日をすごした。

 

種間関係の生物学―共生・寄生・捕食の新しい姿 (種生物学研究)

種間関係の生物学―共生・寄生・捕食の新しい姿 (種生物学研究)


 このシリーズは、第一線の研究者が、自分の研究をエピソードも加えつつ紹介してくれる。今回の本では、「種間関係」がテーマで、生物が様々な種間関係の中でどのような性質を獲得し、種分化していったかという事がいろんな研究で紹介されている。
 

 読んだ中で私が好きなのはどれかと言われたら、オタマジャクシの話やマルカメムシの話が好きだ。

 
 特に、オタマジャクシの話は読み応えがあった。
 
 エゾアカガエルの捕食者への防衛として膨満するという形態変化を発見し、しかもそれが化学物質などではなく、直接接することによって誘導するという事をうっかりサンショウウオを逃がしたことから発見する。更に、大学院へ戻り、サンショウウオに対しては膨潤することで防衛したアカガエルが、ヤゴに対しては高尾型という異なる防衛形態をとること。更に、オタマジャクシがサンショウウオに対して膨満する事で、サンショウウオ同士の共食いを誘発し、故にオタマジャクシがたくさんいる池では、サンショウウオの子供は少なくなっているのだという、子供の頃の観察の原因を探り出すのは見事。ここに来て、文章冒頭に子供の頃のエピソードが来る意味がわかって、な〜るほどと感心した。

 
 この話は、一つの事がわかって、だから次の疑問を持ち…、という研究の流れが容易に読み取れ、更にそこにうまく失敗談がはめ込まれていて、とても面白かった。オリジナルなグラフも見やすくて、数年後には大学入試に出てくるんじゃないかな?と思った。


 それから、マルカメムシの研究では、マルカメムシの共生細菌をタイワンマルカメムシのそれと置き換えると、成長は変わらないけれど、繁殖が悪くなる。では、その逆もまた同様か?と思うと、タイワンマルカメムシマルカメムシの共生細菌を入れても変化は全くない。何で?と悩み、その解答から、もっと興味深い、共生細菌が餌の消化吸収に影響を与えるという事実を導き出す、その辺が楽しい。
 論文になってしまえば、始めからそのことはわかりきっていたかのように理路整然と考察されるけれど、実は研究者という人達も頭を抱えて悩みまくり、だから新たな考察にたどり着いた時に飛び上がりそうなくらいわくわくして、だから研究という事にどれほど困難があっても「やめられない、止まらない」のだろう。


 クルミホソガでは、クルミだけでなくネジキも食べるというクルミホソガの習性がどのようにして成立したのかを、少しずつ工夫して細やかな実験方法を確立し、明らかにする。その過程が見事だな〜と思う。
 またサイチョウの種子散布の話では、面白いと感じた事に対してすぐに「行きたい」と返答して熱帯に行き、そこからサイチョウの研究へと続いていく。その判断力と、行動力。また、広い熱帯林を毎日歩き、種子を採集し、種子を食べる動物を観察し、時にはサイチョウを追いかけて走ってもみる、という馬力。

 
 全く違った側面を持つけれど、どちらも楽しい。

 その他の話も、興味深くて、それぞれ読みやすいので、ちょっと突っ走った高校生や、大学生なら十分に楽しめると思う。




 個人的な残念どころは、いつもの通りとても魅力的な表紙絵なんだけど、サイチョウスズメダイもホソガもオニイグチも見えるのに、オタマジャクシがいない!


 残念!