「破壊者」
これも図書館の本。
- 作者: ミネット・ウォルターズ,成川裕子
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2011/12/22
- メディア: 文庫
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こちらは、純粋に娯楽として楽しめそうなもの、という視点で適当に新着図書の中にあったのを借りてきた。そして、明日が休みという今日読み出して、何と読破するのに3時間もかかってしまった。500ページに3時間とは、遅くなったな〜。
でも、その3時間はなかなかよかった。様々な人への聞き取りの中で描写される人物は複雑で、人の持つ多面性を感じさせ、同時にいったい何が真実なのかを読み手にも考えさせる。どちらかが犯人では?と思われる人物は物語の早々に登場するのだけど、あまりにも犯人らしいので、余計にそれこそが手で実は犯人は別にいるのでは?と思わせる。そうやってラスト近くまでぐいぐい引っ張って第三の容疑者を匂わせておいて、実は…、と来る。ので、起伏に富んだ筋書きになっている。
それと平行して、地元警察官のイングラムと、結婚詐欺にあったことで男性不信になってしまったマギーのほのかのロマンスが進むけれど、その一癖ある母親のシーリアの造形と共に、非現実的になりすぎない範囲で清涼感のある関係なので、物語全体を少し明るくして読みやすくしてくれる。
更に、ヨットやディンギーの出てくる如何にもイギリスな舞台設定が、ちょっとアーサー・ランサムを彷彿とさせるところもあって感じが良い。
そして、読み終わってタイトルの「破壊者」はやはり犯人だったのだな〜、と知る。人々の感情を無視し、自分の好き放題に振る舞い、恐らくは気分で女性を殺す。その彼の語る物語は、彼がその殺人の瞬間をさえも、自分の都合のよいように認識している事を示す。人は多面性があるし、同じ場面にいてもそのにいる人々は同じものなどみないし、全く異なることを認識する。だからこそ、その認識がずれていると容易に人を殺すことさえあり得るのかもしれないと感じさせる。
英国のミステリーは、階級社会の中で一見それぞれの役割をきちんと果たしているように見える人々が、実は…、というスタイルで来ることが多い。アメリカなどのように、人種差別やギャングといった風土を持たないが故に、社会のゆがみよって…、というよりは、普通の人々が実はどのように普通ではないのかの物語になる。児童文学全集からスタートし、クリスティー、クイーンと進んだ人間としては、そうした緻密な世界の方がしっくり来る。
とはいえ、マギーがイングラムを見直し、そのアプローチを受け入れるのはいいけれど、そもそもイングラムは大男で几帳面で子供好きで責任感のある警察官だったりしたら、結婚相手として地元女性に狙われてたはずなんだけど。なんで独身のままマギーを思い続け、でもこの時点まで実ってないんだ?すぐに、心に傷を持つ30すぎの男女がくっついてしまうアメリカの作品よりは好きだけど、そこはちょっとロマンス小説でございます。
まあでも、馬と犬と孤独を愛し、古ぼけた邸宅にすむちょっと家事能力が低い美女という設定は、ちょっとそそられるのでいいか〜。
と言う事で、マギーがバーティというアイリッシュ・ウルフハウンドの雑種を湯たんぽ代わりにして一緒に寝る、というシチュエーションにちょっと惹かれたので、我が家のジョジョさんを思いつきで寝室に連れて行ってみた。
そしたらまあ、これが湯たんぽ代わりどころか、落ち着かず部屋の中をうろうろするばかり。
返って眠れない!
まあ、これが現実というものでございます。