「風の竪琴弾き」
丸一日ずっと、ヘドから始まる壮大な旅につきあってみた。初冬にふさわしい激しい風の吹く日にはぴったり。
- 作者: パトリシア・A・マキリップ,脇明子
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2011/06/21
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新しい訳は、同じ作者よるものだから、そう大きく雰囲気の変化はない。あの美しい挿絵がないのは悲しいけど、それでも久々に全巻通して読破してみた。
これを初読したのは、中学生だった。あのころはまだ、よくわからなかったけれど、それでも姿を変えて旅を続けながら、鴉になり、木になり、王国に降る雪のひとひらをさえ読み手に感じさせる感覚は強烈だった。
中でも好きだったのは、ヴェスタというトナカイのような動物で、私もヴェスタになって白い雪の平原を走りたいとどれだけ願ったことだろう。ハールは導いてくれないけれど、それでも感覚を研ぎ澄ませてそのものの中に入り込むことができれば…、と雪の降る日の教室で、先生の話も聞かずにひたすらに雪の平原の事を考えていたのを思い出す。
主人公のモルゴンは、自分自身が何者であるかわからぬままに謎に翻弄され謎を解きつづけ、その果てに失ったと思った全てを再び得ることになる。偉大なる者は失ってしまうけれど、それでも、ヘドや辺境の荒原や、深い森を、風の平原を、その大地との絆を得る。静けさと平和を得る。ハールやモルゴルや、あるいはアンのマソムやアストリンとの信頼関係を築き、レーデルルを得る。それはとても甘美な物語だ。現実よりずっと魅惑的な物語だ。
なので、読み終えた本は、読めないように奥の方に突っ込んでおかないとな〜。