hyla’s blog

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「帰れない ふたり」


 本屋さんに行ったら、これがあったので早速買って帰った。

海街diary 4 帰れない ふたり(flowers コミックス)

海街diary 4 帰れない ふたり(flowers コミックス)

 新刊書の中でも、ひときわ高く積まれていたことからして、だいぶ刷っているいるのだろう。けれど、どんどん売れるだろう。これは、やはり是非手元に置いておきたい本だ。
 雑誌掲載時にも一度は読んでいるのだけど、帰って早速取り出して、既に二度読んで、でもまだぱらぱらとめくってみる。そうやって何度読んでも味わい深いんだな。特にどうという物語があるわけではない。ごく普通の日常があって、その中で少しずつ成長し、変わっていく人と人の関係がある。


 例えば「聖夜に星降る」で、すずは風太に言う。
 「来年はいろんなこと決めなきゃいけないんだよね。チャレンジしたり、何かをあきらめたり。そういうことが少しずつ決まっていくんだろうね。」
 素直にそれを言える事、言える二人の関係はとても綺麗だ。そして、すずもなんて大人になったことだろうと思う。

 登場時にはまだ子供の印象が強かったすずは、物語の進行と共に成長し、体型も表情も少しずつ大人びて来ている。けれど、何かを決めると言うことは、同時にあきらめることでもある。その事に、中二でもちゃんとすずは気づいている。それをわからぬままの、子供な大人があふれている現代社会を考えると、それはとてもまぶしいほどの成長ぶりだ。古い街の中で、友達と、家族とちゃんと関わっているから、その中で着実に成長するのだろうと思う。 
 

 吉田秋生の作品は、ほとんどネームがなくて、セリフと絵だけで話は進んでいく。けれど、コマ割りや絵が抜群に上手くて、一枚の絵、あるいは一コマで実に多くの事が語られる。
 例えば「帰れないふたり」で、「おれは浅野がこの世に生まれてくれて良かったって思ってるから。それでいいと思う。(殺し文句だよこれ。)」と言う、風太の少し照れた、けれど一心な表情。そして、続くすずのセリフさえない一コマに見入ってしまう。
 言葉はない。けれどその表情は、風太のセリフに、驚きながらも嬉しく思っている。そして次の一コマで、また少し表情が変わる。多分その時、風太の言葉を自分の中に深く刻んだだろう。
 吉田秋生の絵は、気になる人ができる。途惑う。恥ずかしいと思う。嬉しい。そんな気持ちが、見える。

 
 
 美しい古い街で少しずつ成長するすず達の物語は、とても美しい物語だ。でも、ここに出てくる人達は、ごく平凡な人達だ。特別な能力も権力もなく、些細な事にいらだったり、喜んだりしている。だから、ちゃんと生きていれば、私たちが自分たちの身の回りにも見いだし得るものなのだ。と思わせてくれる。だから、もう一度素直な気持ちになって、身近な人との、面倒だけどしみじみとした関係を取り戻したくなる。
 
 
 例えば家族というもの。作品の中で、すずも風太も、電話の内容家族が聞かれているのに気力を使い果たす。あるいは、風太のお見舞いに来たすずを見に、お母さんとお父さんとお婆さんまでが顔を出す。そういうのって、結構面倒だし、時には不快な思いもする。そういう濃密な家族という関係は、ささくれた気分の時には、お互いに嫌みを言い、喧嘩になることもある。だけど、この本は、何気ない日常の会話を交わす相手がいるという事や、何となく察して思いやる人がいるという事の大切さを気づかせてくれる。
 私たちは何であれ、自分の気持ちで物事を進めたいと思う。仕事でへとへとになって泣きそうな気分で帰ってきたときは、家族に気を遣う余裕もない。あれこれ言われれば、いい加減にしてくれと思う。そんな時、家族というのは、時にやっかいな存在でもある。けれど、面倒でも切り捨ててはいけないこともあるのだ。それは同時に大切な物でもあるのだ。
 

 そして、すずと風太を見て、人を好きになって行くときの、あの何となく気恥ずかしい気分や、あったかさを思い出す。幸も佳乃も千佳もそれぞれに違うけれど、その恋模様を見ていると誰かを好きになるという事はとても素敵なことだったなと思い出す。そして、素直な気持ちになってくる。そして、誰かと何かを共にしたくなる。
 特に4つのエピソードの中では、「おいしい ごはん」が一番好きだ。美味しいアジフライを誰かと食べたい!


 
 と言うことで、ずっと読み続けたい作品ではあるのだけど、どのように決着するのかも知りたい。
 とりあえず、次回作が早く読みたいな。