遺伝子操作
移動中の時間つぶしに、駅前のブックオフで適当に買ったのがこれ、100円だった。
- 作者: アランエンゲル,堀内静子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1991/05
- メディア: 文庫
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この本の裏にはこんな文言がある
パリに現れたロシア人の少年は医師達を驚かせた。少年は驚異的な筋力と知力を備え、しかも急速に老化する遺伝病に冒されていて、わずか八歳なのに老人の顔をしていたからだ。どうしてこんな少年が生まれ、なぜ死をもたらす奇病に冒されたのか?謎に挑む生化学者マリガンと遺伝学者セヤンは、いつしか産軍複合体の非常な策謀に巻き込まれていくー最先端の科学情報を駆使し遺伝子工学の陥描く医学スリラー。
で、内容はと言うと、この文言が全てを言い尽くしている。
謎の少年は、強い兵士を作り出すべくロシアの軍が出資して秘密裏に遺伝子操作によって作られた子供で、でも、早老症が出て、実験施設を抜け出して自分を治療するべくパリに現れたのだった。で、少年達は死んで、実験は失敗して、主人公達は(マリガンとセヤン)は遺伝子操作ではなく、自然に子供を作ろうね、と結ばれて終わり。
何とも、ひねりがない。これが遺伝子操作というテーマを扱いながらも、早川SFではなくNVで出されている理由がよくわかる。確かにこれはSFではない。
でも、逆にこういう作品を読むとSFらしさとはいったい何か、と言うことがわかる気もする。
この作品で扱われているレベルの遺伝子操作は、これは未だ実現していない。でも遺伝子治療なんかはそろそろ可能になってきているわけで、科学技術としての目新しさはない。遺伝子操作で生まれた子供であろう事を明らかにする過程も、そんなに見当つかんもの?と思うほどのスローペース。研究者のくせに、想像力欠落しすぎ。1990年頃であっても、遺伝子操作で天才児をつくる事が可能、というシチュエーションをつくるなら、同様にその遺伝子を分析することだって可能という設定でなければおかしいだろう。
そして、何よりもう、1991年に出版されているからしょうがないのかもしれないけれど、致命的にソビエトとアメリカの東西冷戦、策謀合戦が主になっていて、これが何とも時代遅れ感を濃厚にかもすのだ。そこだけを見れば、これは60年代から70年代のB級アクション・スパイ小説でしかないのだ。時代の方が先行したということかもしれないが、本当にSFな感性をもっているならば、もっと大局的な見方をするのじゃないか。それをも見越した、そして時代が変わってもそれでも古くならないような設定をもってくるような気がする。
今例えばハミルトンを読めば、あるいはアシモフやクラークでも、作品中にはその後の技術発展によって、古くなってしまったガジェットはいくらでもある。けれど、その時代ならではのものはあっても、それでも今でも復刊・再版され続けるのは、その作中に今を飛び越える新しい価値観、未来感、想像を超える異質性、それでも変わらぬ夢と絶望、そういった普遍性があるからではないだろうか。
「アンドロメダ病原体」は上質のSFだし、「ジュラシックパーク」でもSFだと思う。「ブラジルから来た少年」だとかなり微妙だけど、この作品においては完全にこれはSFではないと感じられてしまう。
私は生き物マニアなので、生物ネタは大好きだ。けどな、だからと言って、何でもいいのではない。そこはやはりきっちりとSFである作品が好きだ。
うん、口直しはマイルドに「トリフィド」でも読もうかな。