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きのうの世界


 これを、やっと読み終わった。

きのうの世界

きのうの世界


 読みかけては投げ出すと言うことを何度も繰り返した末にやっと読破。物語後半に成ってくると、どんどん進むが、とにかく最初は読みにくい本だった。

 
 まず、図書館で帯はない状態で借りたものだから、どういった本であるという情報なく読み始めると、最初は殺人事件だった。推理系の作品か?と思いつつ読み進めると、何となく違う。舞台となる街自体がなにやらとても不可思議。しかも、物語は読者たる「あなた」に話かけるように進み、でも「あなた」は登場人物のようでもあり、またそれが誰だかさっぱり判らない。
 で、も投げ出した。

 
 推理小説だと、いい加減嫌になると最後の方を先に少し読んで、物語の構成を頭に入れた上で読み直すという技も使える。ところが、この本でそれをしようものなら、更に訳がわからなくなるのだ。

 
 なんてったって、最後には殺人事件の被害者の最後のシーンが描かれているのだけど、犯人らしきものはさっぱり出てこない。ただ、倒れて死んだらしい。しかも、どうやら優待離脱っぽい状況になっているようだ。

 
 が、再び頑張って前から読み進めて見ると、これが推理小説とかではなく、「常野物語」に近い感覚のファンタジーであることが判る。全ての物を一瞬で記憶してしまう脅威の能力を持ち、卓越した建築技術を持った一族が、地下水の上に浮かぶある街の大雨に対する治水技術として準備した「水」と「塔」を巡る物語である。そういう点では、「月の裏側」にも的でもあるかもしれない。

 

 でも、最後まで通して読んだ印象としては悪くない。幸福とも不幸とも突かない死に方は印象に残り、また地方都市の水路とそこに棲む人の記述は魅力的だ。謎が謎を呼ぶ形でひろげられた大風呂敷も、最後には何とか閉じている。
 
 とは言え、最初の方の読みにくさは何とか成らないものか、とはやはり思う。「あなた」に問いかけるように始まる物語の形式は、実験的にやってみたものかもしれないけれっど、やはり読みにくさが先に立ってしまうので、成功しているとはいえないだろう。
 
 
 でも、最後まで読み通せば「常野物語」が好きな人は好きな作品でしょうな。