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衆鱗図


 とある会議に出席し、「衆鱗図」について話を聞いた。会議自体もともと数合わせで出席したし、美術や歴史的な話だろうと思って期待もしていなかったのだけど、これが意外とよかった。
 
 
 衆鱗図というのは、松平藩の五代藩主がつくらせた博物図譜のうちの魚類編である。その見事さは、以前にテレビでちらりと見て、美術的・歴史的な価値は優れているとは思ったが、博物学的・自然科学的な価値が高いとまでは思わなかった。
 
 
 けれど、研究員の話によると、衆鱗図は美しいだけでなく正確で、かつリンネによる分類大系が確立する以前に創られた図譜でありながら、実際分類群の75%と主立ったものを網羅しているという。日本全国の魚類をまとめた図譜、すなわち図鑑をつくるという明確な意図に基づいて計画的に創られなければこうした図譜ができようもなく、そう言う点で平賀源内の関与が示唆されるのだそうだ。
 また、この図譜は一次資料にあたって描かれ正確であったことから、様々なところで模写され、シーボルトによっても持ち帰られたとか。かつ、日本で採集された生物の分類において、参考文献としても挙げられているとか。
 
 
 残念ながら、いつどこで採集された個体を元に描かれたという文献はないのだそうだ。「いつ、どこそこで何某が採りたる魚を描いたものである」なんて採集データが残っていれば、更に貴重なデータになっただろうとその点は残念なものの、幕藩体制の崩壊や空襲なんかの中でよくも今まで250年も残ったものだと感心した。

 
 また、講演者のプレゼンも上手い。しゃべりを聞けば、賢い人だと言うことはすぐわかるし、話し方や構成自体も相当練り上げられていてわかりやすく、昼食後の眠くなる時間でも興味をもって聞けた。
 特に印象に残ったのが、衆鱗図の魚類について、それが正確なのか、そういう魚が実際にいるのか、衆鱗図のことはどのように記載されているのか、それらを確認するためにオランダのライデン大学の博物館や、イギリスのリンネ協会、あるいは香川県漁連や引田漁協といった所まで幅広く手を伸ばし、その都度一次データを付き合わせて確認しているという点である。絵しか残っていない衆鱗図の意味を、そうやって突き止めて作業は大変ではあっても、きっとわくわくしただろう。そうやって作り上げられていく物語は興味深く、文系の研究というのはこうやって行われるんだなと興味深かった。

 
 五代藩主の編纂させた図譜には「衆鱗図(魚類)」の他「衆禽図(鳥類)」「衆芳図(植物)」などがあるらしい。そのうち最も見事で有名なのが「衆鱗図」というけれど、その研究と共に、ぜひ鳥類や植物、そして「江戸の博物学」についてもっと話を聞きたいと思った。
 
 興味のない人にとっては、単に綺麗な図譜でしかないけれど、そうやって考えると、研究したいと思う人にとっては、本当に貴重なお宝だろう。そして、それこそ場合によっては生涯をかけて探究したいテーマが発見できたと言うことは、とても幸福な事だろうなと羨ましくなった。



 


 ま、ワーキングプアとか首切りとかの不景気な話ばっかりだけど、たまには浮世離れしているかもしれないがこういう話を聞くのも悪くはない。や〜な事ばかり多くって暗くなりがちな時、追いつめられた気分な時こそ無理しても外に眼を向けて、純粋に知ることを面白いと思うこと。

 

 それって、ひょっとしたら精神衛生上大事なことかもしんないな〜、と時には思ってみる。