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本を読む

 

 久々に真面目な本を読んだ。

 

共進化の生態学―生物間相互作用が織りなす多様性 (種生物学研究)

共進化の生態学―生物間相互作用が織りなす多様性 (種生物学研究)


 この本のシリーズは割と好きで、特にお気に入りの花生態学の最前線―美しさの進化的背景を探る (種生物学研究 (第22号))を含めて何冊か持っている。けれど、研究が進んで最近の物になるほど分子生物学がからんでくる。こうなると、学生の頃にも「遺伝子の分子生物学」を読破しきれなかったおばちゃんにはちと荷が重かったりする。

 
 とはいえ今作はずばり「共進化」がテーマだし、特に前半には花と虫を巡る話題が入ってるので買ってみた。

 
 1番はじめの話題はマルハナバチと植物の形を巡るお話。叙情的なマルハナバチの訪花の描写から始まっていくつかの花で調べられた送粉者と花の形についての話が述べられている。とかその中では特に、花の花弁が時間と共に反り返ることによって複数の送粉者による送粉を可能にしているという話が面白かった。あと、文章中の「何のためにやるのか?」「何を明らかにしたいのか?」という言葉の置き方が、酒井聡樹さんのこれから論文を書く若者のために 大改訂増補版そのまんまやな〜、と思ったら東北大学の人だった。納得。つか、「これ論」の影響ってすごいなあ〜。

 2つめツバキシキギゾウムシとツバキの種皮の暑さについての話。ツバキシギゾウムシは特に甲虫マニアではなくても、一度実物を見たいと思ってしまう昆虫で、そういう口吻の長さと種皮の厚さが共に進化したという事。テーマがシンプルなだけに読みやすかった。これから更に研究が進むことでもっと話題が出そうで楽しみ。

 そして個人的に最も好きなのは、チャルメルソウとキノコバエの話。チャルメルソウなんて、私も図鑑では見ても実物は知らない。著者も同じように図鑑を眺めて変な花だから、という理由で研究を始め、悩みこみながら調査を進める。花の訪花昆虫を調べ、全く送粉者が来ないと報告すると「来ると信じて待っていれば必ず来る。」って返答する加藤先生強い〜。でもそう言われて(励まされて)調査を続けてキノコバエという意外な送粉者の正体を突き止め、更に性的二型の花の存在や異なる種類のキノコバエによって送粉される種の存在と面白かった。

 
 後、カンコノキの受粉をさせるホソガの話も好きだな。

 
 で、そういう前半に比べ中盤以降はなかなか気合いの入った話が多い。イチジクコバチの話、アリとアリ植物の話と、興味深いがどうしてもミクロな話が中心となり始めるとイメージが湧きにくくなる。更に菌根菌の話や根粒菌の話も面白いとは思うのだけど、いかんせん私の分子生物学についての基礎知識は十分なものではないので、ちょっとつらかった。
 矢原先生の植物とそれに感染する菌をめぐる話も完全には理解できてないと思うけど、興味深い話ではある。 


 で、全体を通して見て、やっぱり私は前半のチャルメルソウやツバキシギゾウムシ、カンコノキといった研究の話が印象に残る。これらの書き手はまだ大学院で研究に取り組む若手で、悩みながらも研究の面白さにとり込まれて研究を進めているのだろう。そういう人達の人となりが見えて、そのわくわくした感がよく伝わってきて、印象に残るのだと思う。

 
 こういう本を読んで、今学部勉強中の人の中から、同じように頑張ろうと思う人が出てくればいいな、と思う。特に地方の大学生にこそ読んで欲しい。京大などの旧帝大あたりの理学部に進学してれば加藤先生のような国際的に活躍する教授に直接教わり、仲間と切磋琢磨することで研究に対する意欲をかき立てられる。けれど多分、地方の理学部、あるいは理学部でさえない例えば教育学部などに進学し、けれどそうした事に対する興味を持ってどうすれば良いのか行き詰まっている人も多分いる。ろくに指導者もおらず、何をどうしていいかさえ判らない環境にあって、そういう人がこうした本をよんで、自分で野外に出て生き物を観察し、考え、そして再び本を論文を読んで考えていってくれたら、道は開けるかもしれない。


 つか、おばちゃんはついつい猛烈に勉強したくなったよ。行けるもんなら大学院行きたい!

 
 いつものことながら、このシリーズの表紙はすっきりとしていながら優しく奇麗だ。読了後、明るい空色を背景に描かれているその絵を眺めてみれば、それはカンコノキの花に花粉を塗りつけるホソガやチャルメルソウを訪れるキノコバエ、ツバキとツバキシギゾウムシの姿だったりする。
 
 

 このすてきな表紙に騙されて、この本を手にとって、そしてそのおもしろさに引き込まれていく人が増えたらいいなと思う。




 
 あと、これはどうでもいいのだけど、第2部の表紙が4章と5章の間に挟み込まれていた。目次から見ると、これは3章と4章の間に来るべき物だろう。私の持っている本だけの間違いならいいんだけど・・・・。