hyla’s blog

はてなふっかーつ!

マルク


 マルクが死んだ。


 こうやって書いていても、まだやっぱり下に行けばマルクが尻尾を振って待っているような気がする。


 けど、もういない。

 

 

マルクはこの夏で18歳だったし、特に夏を過ぎてめっきり弱ってしまっていた。どれだけ食べても身につかず、どんどんやせてしまって、ほとんど歩く骨格標本という趣だった。当然筋肉が無ければ歩くのもおぼつかなくなる。1日に10回はこけていただろう。玄関に落ちて上がれず、鳴いていたことも一度や二度ではない。更に、しっことウンチのコントロールができなくなって、寝ながら漏らしてしまうことがしばしばだった。朝起きてくると、腹部から太ももにかけてびっしょりと自分の尿で濡れて起きてくる。いつもそんな状態が続いて、ついには皮膚はかぶれて赤くただれてしまった。それに、時には夜の間にウンチをして、その上を歩き回って部屋中ウンチだらけという惨状をつくってもくれた。

 
 目も鼻も不自由になって、人の手かご飯か区別がつかず、ご飯をもった人間の手まで思い切り噛みついていた。幸いというか、歯もかなり抜けて、しかも丸くなってしまっていたので血が出ることはない。しかし本気噛みされると痛かったなあ。


 

 そして、この日曜日になってとうとう後ろ足がたたなくなった。それでもいざってでもマルクははヒトの側にいようとする。その夜は、何が苦しいのか時折鳴いていた。

 
 昨日午前中で仕事を切り上げて帰り、側にいた。寝ながら痙攣するように震えていた。

 
 そして、夜の10時を過ぎて、しきりに鳴き始めた。体が強く収縮し、そのたび悲鳴のように鳴く。一晩側にいたけど、側にいてもなでてやるだけでどうにもしてやれない。もがいて、床をぐるぐる舞う。かつかつと歯が鳴り牙で口を切った。ご飯はもちろん水も飲まない。
 
 
 ただ、側にいて、吐く物を拭いてやりなでてやり、ぶつけそうに動く頭をカバーしてやる。

 

 そして、ようやく朝になり、7時から30分おきに近隣の獣医に電話をかけてみた。けれど、当たり前だけどかからない。マルクは静かになって、ただ呼吸をしていた。
 

 8時半を過ぎ、とにかく獣医に連れて行ってみようと思った。死ぬのはしょうがなくても、楽に死なせてやりたい。これほど苦しむのは、何かある?

 



 そして、車の用意をして、マルクを抱きかかえようとして・・・、息をしていない事に気付いた。

 

 しばし待って・・・、それでもやっぱり呼吸はしない。
 まだ暖かな体は、何度触っても、鼓動が止まっていた。





 

 18年間、マルクとずっとずっと一緒にいた。いろんな所へ二人で行った。


 気性の荒い犬だった。倍以上ある犬にも向かっていき、イノシシにだってケンカを売った。食い意地もはっていたもんだから、骨格標本をつくっている最中の鍋からテンの腰骨を拾って食べてしまったこともある。臭い物が大好きで、山でアナグマの腐乱死体とかを見つけては、その上ででんぐり返しをしてくれた。山で走ることが大好きで、一緒に歩く人の3倍は走っていたから、猟犬並によく鍛えられていると獣医さんが言った。だけど、家に帰ると、何度も何度もひっくりかえってお腹を出して甘えてきた。

 


 マルクは、火葬にして、骨の一部をいつも遊んだ山に持って行った。もう荒れてしまって誰も来ない池の畔のアラカシの下に埋めて、たっぷり落ち葉をかけてきた。




 私は、マルクがとても好きだった。