hyla’s blog

はてなふっかーつ!

本を読む

いつものように、ぼーっと本屋でみていてこれを発見。


 

チェンジリング・シー (ルルル文庫)

チェンジリング・シー (ルルル文庫)

 某掲示版でマキリップの新作で出たということは知っていたのだけど、「ホアズブレスの竜追い人」と一緒にamazonのショッピングカートに入れたまま、何となくまだ注文はしていなかったのだ。けどやっぱり現物をみると欲しくなって、買ってしまった。


 にしてもまあ、これを買うのはちょっくら恥ずかしい。だってねえ、何たってああた、ルルル文庫っすよ。コバルト文庫くらいなら、何とか普通に買えますが、ルルル文庫・・・・。名前からして恥ずかしい。つか手に取ったことさえありませんがな。

 
 本の帯には「恋と冒険は乙女のたしなみ!」って・・・・orz。


 こらえてつかーさい。恥ずかしいから。


 なんだけど、そういう恥ずかしさはぐっとこらえてそれでも買ったのは、そりゃひとえにP・A・マキリップだから。サイベルやイルスからずっと追い続けているファンとしては、そこはやっぱりおさえておかねば、と思うわけであります。

 

 にしても、ルルル文庫かあ・・・・。

 

 とかなり不安を感じつつ読み進めたのだけど、覚悟したほどひどくは無かった。一読した感じでは普通の訳だ。そして、後書きの訳者の文章を読むと、恐らく同年代で、「イルスの竪琴」にはまった口らしい。
 「イルスを読んでFTが好きになり、翻訳家になりたいと思った。」
 って、結構筋金入りじゃん。そっか〜、お仲間かあ〜と、好印象。
 
 ついでに解説の安田均という方も、やっぱりマキリップ大好きアダルトな感じだ。つまりは、早川ではまったマキリップ大好き人間が、しびれを切らして出しちゃった感じか?かつ、自分たちがかつてハヤカワFTではまったように、ルルル文庫ではあっても、ここからマキリップにはまる人間が出て欲しいと思ってるんだろうなあ、と思った。


 で、本来ターゲットと思われる読み手として読んで評価すると、星3つ半くらいだろうか。

 

 マキリップと言えば、その緻密な構成は魅力の一つだけど、このチェンジリングシーは、そもそもがジュブナイルなので、構成そのものはシンプル。とはいえ、美しいイメージを喚起する言葉の使い方はやはりマキリップ。
 そして、この作品の主題は、海の魔法。魔法の力なんだと思う。良いとか悪いと単純に割り切れるものではなく、幸いと災いを同時にもたらすもの。雨や風や太陽と同じく、ただ存在するものであり、同時に人が制御できるものでもない、そういう魔法の魅力がこの作品の主題ではないかと思う。そういう魔法というものを、ごく自然なそこにあるものとして描く所はやっぱりマキリップ。
 特に単純なボーイ・ミーツ・ア・ガールの物語ではなく、そもそも自分が所属する海に呼ばれ、主人公に惹かれつつも王子キールが海に還るあたりは、そのあたりを強く感じる。同じく海から来た人魚をテーマにしたジェイン・ヨーレンの「水晶の涙」を思い出した。

 
 なんだけど、減点どころはマキリップらしい静かでいて美しい世界の表現が少し弱い感じがするところ。言葉の使い方はマキリップなんだけど、こう嵐が吹いていても尚も静けさを感じるような雰囲気がない。そういう端正な雰囲気を出そうとしているようには思うのだけど、何か・・・。
 
 

 なぜなんだろうか・・・?と、ぱらぱらとめくりながら考えた。

 


 で結論として考えられたのは、基本的には主人公目線で語られるこの物語において、宿屋で下働きをする漁村のあまり教養のない貧しい娘であるペリ(ペリウインクル)を意識してか、やや舌足らずな言葉使い、表現を使っていることだろうか。それも、かなり現代風の言葉で、そこがやはり旧来のマキリップの作品の言葉に慣れた者としては、違和感が残る点なのだろう。
 
 ファンタジーは、昔でも今でもない、いつでもない時代の物語だから、やや古風な言葉の方が似合う。

 例えば、冒頭で主人公ペリとキールが出会うシーンでこんな風に会話が進む。

 

「この家に住んでいるおばあさんはどこだ。」
 「おばあさんを知ってるの?」
 「どこにいる。」
 「行っちゃったわ。」
 「どこへ。」
 「どこかへ行って、もどってきてないの。」

キール王子は「つっけんどんに話した」とあるので、王子の方は良いとして、「行っちゃったわ。」というのはなあ・・・。イルスで培われた私のイメージだと、「行ってしまいました。」だと思う。

「この家に住む老婆はどこだ。」
 「ご存じなのですか?」
 「どこにいる」
 「行ってしまいました。」
 「どこへ。」
 「どこかへ行って、戻ってきません。」

 って感じなら、慣れ親しんだマキリップの世界。あくまで私個人のイメージだけどね。とはいえ、ルルル文庫のメインターゲットは女子中高生だろうし、そうなると親しみ易い訳の方が良いのだろう。だけど私には、マキリップらしい言葉運びの一方で、そういうところが妙に気になって乗り切れないところで、違和感が残るのだ。

 

 そういう違和感は、挿絵でも感じる。なんちゅうか、これがマキリップの絵?個人の趣味ではあるのだけど、山岸涼子によるイルスの挿絵まではいかないにしても、漫画家なら、あしべゆうほとかあずみ椋とか神坂智子か。もう亡くなって久しいけど、花郁悠紀子とか妹さんの波津彬子あたりにして欲しかった。あるいは「オドの魔法学校」みたいに、原画そのままの方でもだけど、やっぱりそこはルルルだからなあ〜。

 
 ということで、すんません、そもそもルルル文庫非対象読者ですので、そういう点はやっぱり渋い評価でした。