本を読む
図書館で連休用に何冊か本を借りてきた。わざわざ借りてこなくても、未読の本なんて山積みになってるんじゃない、っていう突っ込みはなし。それでも、新しい本を見ると、持って帰りたくなるのだ。
で、これは確か直木賞をとった作品で、ライトノベルの桜庭一樹が、どういう風に評価されたのか興味深く読んでみた。
- 作者: 桜庭一樹
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2007/10/30
- メディア: 単行本
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簡単に言っちゃうと、父と娘の近親相姦のお話。それを隠すために人殺しまでして、北海道から逃げて東京で暮らす花が結婚するところから始まって、どんどんと時を遡って行く。
で、最初の章は意外と面白く読んだのよね。こう、ひどく危うい感のある花が結婚して、自立していくのか、それとも健全な婚家の中で自己破壊するのか、その辺に興味を引かれた。なんだけど、その後どんどん昔に戻っていく度に、だんだんなんだかよく判らなくなる。
そもそも父親が亡くなり、その後恐ろしく母親が厳しくなったが故に、母親というものに対して喪失感と憎しみと激しい恋慕の情を持つ父が、中学校の頃に預けられていた従兄弟の結婚相手と子供を作っちゃう。その子供が地震による津波で孤児になって引き取り、その後ゆがんだ愛を育む訳だ。
けど、父ってそういうもの?家族を持てなかったが故に、家族、あるいは母を自身の血のつながりのある娘の中に見いだし、肉体的におぼれるのって・・。父親なのに、インセストタブーは働かないんかね。こう、一線を越える愛情を持ちつつも、そのそこはかとない気配のみで、そこから動かない、だから深く求める。そういう風な物語の方がより一層深く欠けている自分を求める物語になったんじゃないか、と思った。
また、花はどうして、そういう父を受け入れたんだろう。不倫の子である為に、家族の中で常に何となく異質感を感じ素直になることができなかった。そういう、自身も認識しない悲しさ。それが、大地震の際に「生きろ」と父に告げられる事で、けれど、自分を残して家族の全ては一緒に死んでしまうことで、得たと思った愛情は刹那のうちに失われる。
そういう花は、ゆがんだ実の父の愛情を平然と受け入れ、その行為に依存し、殺人を犯すことで更にその依存を深める。
「骨になっても一緒」
と嬉しげに語った花は、じゃあなぜ結婚を望んだのだろう。そこが全くわからない。過去はいい。そうではなく、その歪んだ、けれど当事者目線では恐ろしく甘美な愛情をなぜ捨て去ろうとしたのだろう。花はいったいどういう人間なんだろう。
そこが、ひどくわからない作品だった。
直木賞は芥川賞とはちがうけれど、文芸にしても、もっとこう訳判らないなりにも、何か残らないか?気配だったり、悲しさだったり、人間の愚かさだったり・・・。賞をとるものって、何かしらやっぱりちょっと違う所があるような気がしていたけれど。ライトノベルの文章ではないけれど、やっぱりライトノベルな感が濃い気がした。
あと、これだけ濃厚な性描写があるのにもかかわらず、花が妊娠しないのはどうしてなんでしょう?素朴に考えても、妊娠しちゃうでしょう。それに、殺された刑事さんが死蝋化するなんて・・・。その前に、腐って異臭がして虫が湧いちゃってバレるだろうし、この程度の偽装なら普通逮捕されないかね。