hyla’s blog

はてなふっかーつ!

本を読む


 だいぶ以前に読んではいたのだけど、何となく放置。図書館の本だし、いい加減返却しなくちゃならないので一つ感想など。
 
 これです。
 

塩の街

塩の街


 有川浩の本はこれで4冊目かな。「海の底」「空の中」と「図書館なんたら」(どれだったのか、忘れた。)

 
 で、何というか、人物の基本のキャラが皆同じだな〜。元気が良くって、明るくてタフで性格のいい女の子(そう正におんなのこ)とそれに振り回される年上男。それが皆自衛隊とか軍隊みたいな制服を着るタイプの人間で、言葉は少ないけどサバイバル力抜群で頼りになる。で、二人がぎゃんぎゃんケンカをしながら危機を乗り越える中で結ばれていって、同時に危機が回避されてハッピーエンド。


 疾走感はあるし、それなりに読後感はいいのだけど、ワンパターン。これって何というか、ハリウッド製のアクション映画的なワンパターンと同じだな。ビル爆破だとかハイジャックだとかの問題が起きて、能力はあっても不器用故に組織の中では一匹狼な正当派ハンサムではないけどしぶいにーちゃんがなぜだか超人的な強さを発揮して闘うっていうパターン。「ダイハード」も「沈黙のなんちゃら」も「スピード」もみんな同じ。それなりに面白いけど、それだけしかないと退屈でもある。

 

 そうなると、同じパターンを使いつつ如何にオリジナリティーを見せるか、という勝負になるんだろうけど、自衛隊三部作と呼ばれているらしい一連の作品では「何だこれ?」的ではあるけど、設定のオリジナリティーは確かにあるだろう。

 

 この作品の基本設定は、ある日大きな塩の固まりが隕石としてふってきて、それによって伝染病のように人間が皆塩に変化していくもの。


 と言えば判るように、「おい・おい?」とつっこみどころは満載でしょ。SF読みなら特にね。

 
 だって、そもそも人間を構成する原子がいきなりNaOHに変化したりしないと思う。それって高校化学でも習う「質量保存則」にも反するし、そもそも原子が他の原子に変化することを認めるなんて錬金術の世界だわ。それに、そうした変化が塩の固まりを見ることによる、一種の洗脳によって生じるって?更に、恐らくは日本全体のかなりな人が塩の固まりになったら、産業も交通もあったもんじゃないだろうし、そう言う中で自衛隊だけが正常に機能するってどゆこと?


 と、そういう設定へのつっこみどころは満載でも、そういう設定のムリっぽさはあえて無視するという手を使う作家もいる。崩壊していく世界の描写とか、そういう中での人間の行動とかに絞るという方策。例えばバラードの何かが典型的にそうだ。なぜ世界は沈むのか、あるいは結晶化するのか。そういう事はある意味どうでもいい。それより、国家も社会もモラルも人間性も、何もかもが崩れゆくしていくその様の描写が見事。

 

 だけど、元に戻って、この作品では人間がかわんないんだよね。しかも、社会もそれなりにはすんなり維持されててるし・・・・。



 でも、この「塩の街」は、この作家のデビュー作らしい。デビュー作でこのレベルなら、それは確かにかなりもものだと思う。そうすると、その後書き続けて「図書館なんちゃら」に至っても、人物のキャラのワンパターンがそのままである点が大きな問題と言えるかも。



 力はあるかな、と思うのだ。ここまでの作品は、恐らくある程度売れているだろうし、特に「図書館なんちゃら」は、本屋大賞なんかをとってそれなりに評価もされているだろう。だからこそ、次作は一気に作風を換えてみることにもチャレンジしてほしい。このままこの作風が固まってしまうと、限界がくるのも早いような気がする。

 
 売れるとかウケルとか言うことにこだわらず、自分の可能性をいろいろと確かめてみる作品に取り組んでほしいな、と期待してみます。