秋霧の朝
晩秋の朝は、とっても奇麗。この3日間の連休も、極上のお天気だし、特に朝には秋霧が立ちこめて、霧の中の川のアシの白い穂が奇麗だわ・・・。
なんて事を考えていた朝8時。同乗させてもらっていた車がいきなり止まった。走っていたのは田舎の川の土手にそった道。ん?と見ると、前には良く見知った焦げ茶色の固まり。
「あれ・・・。」
「あ、あれ、タヌキやね。どう見てもタヌキや。」
「こんなとこ、タヌキやおるん?」
「結構おるよ。以前にもあるっきょるんを見たことある。けど、邪魔やね。どうしようか・・・。」
そうなのだ。道の見事に真ん中にこんもりをあったのは、タヌキの死体。極上!に近い死体だ。少なくともAランク。
タヌキというのはよく車にはねられる。けれど、車の前で停止するせいか、ひかれた後のタヌキは、結構哀れだ。腸が出てるなんてのはざら。内蔵が奇麗なら、頭骨ボロボロ。頭骨が奇麗なら腹部はべっちゃり。場合に寄っては、全身ぺっちゃんこなんてのもある。個人的には下のようにランク分けをしている。
-特A:無傷に近い
-A:死因となったところ意外は、奇麗。カラスに食われてもいない。腐乱もはいらず、匂いもない。
-B:衝撃で部分的にかなりつぶれている。けれど、頭骨とか、腹部とか、部分的には見られるところがある。腐乱はない
-C:ほとんど原型をとどめない。良くても一部。腐乱が進んでいたりして、手がつけにくい。
-D:種類が判るだけ。皮だけしかない。性別はおろか、死亡時期もよくわからない。
というように、こんな個人ランクを持っているというのは、実は私が結構ほ乳類の死体を拾う人だからである。いろいろあって、現在はあまり拾っていないが、多分これまでに拾ったほ乳類の数は、結構なものになるだろう。そして、その私の目からみても、Aランクのタヌキの死体が転がっていたのだ。それも我が家から5分の川縁の路上で!
これは、拾わずしてどうする?
と言いたいところだが、どっちかというと「これでも拾えるか?」という挑戦に近いものを感じた私・・・・。
というのも、その時私が着用していたのは、着物。
そう、オ・キ・モ・ノ!
「赤茶地の鮫小紋(無地の着物みたいに見える着物)にクリームの名古屋帯。帯上げは薄いオレンジでそれだけでは地味だから帯締めは朱を効かせて、ちょっとおとなしめに上品に決めてみました。」
っていう、まさにお茶会ファッション。だって、お濃い茶とお薄と立礼席に点心がついた結構大がかりなお茶会があるのよ。お茶券を買っているのよ。だから朝もはよからお出かけなわけで、同じくお茶を習っている友人と先生を迎えに行っているまさにその最中で、しかも自分の車ではなく・・・。
この状況でどないせいっちゅうねん!
しかし、ね・・・。Aランクのタヌキの死体。これは、なかなかないよ(←悪魔の声。)幸い冷凍庫は、最近博物館にかなりたくさん寄贈したかいあって、このタヌキでも入る余地がある。そして、温度は低い時期。この時期なら、1日置いていても腐敗しない・・・。
なんて事を瞬時に考えた私。そして、「死体を拾う」なんて事は言った事のない友人に(人にはいろんな顔があるのだ)、にこやかに微笑んでこう言った。
「困ったわね。んじゃ、ちょっと私がのけるわね。」
でもって、車を降りて、そのまま死体の後ろ足をつかんで引っ張って、すぐ側の茂みの中に判らないように放り込んだのでした。お着物で!
もちろん、そこは日陰で温度はあまり上がらないだろうし、路上にあれば親切な誰かが埋葬するやもしれないけど、藪の中にあれば気がつかれないだろうし、気がついてもそのまま放置するだろうことは計算済み。なんて賢い私!念の為に、手にダニが移ってないかどうかを確認し(タヌキは特にダニが多いから気をつけないといけないのよ)、死体をつかんだ手は使わないようにしながら車に乗り込んで「じゃあ、参りましょう!」
と言うことで、先生のお宅で手を洗わせてもらい、無事、優雅なお茶会に出かけたのであった。いやあ、お茶で培った段取り力がこんな所で発揮されるとは・・・・。
ええ、もちろん帰宅後にちゃんとビニール袋持参で拾いに行きましてよ。
それが何か〜。