hyla’s blog

はてなふっかーつ!

物語の女性像

 
これを読んだ。

 

わたしを愛した狼〈上〉 (扶桑社ミステリー)

わたしを愛した狼〈上〉 (扶桑社ミステリー)

  

 扶桑社ミステリーであることと言い、表紙やタイトルといい、ちょっくら恥ずかしい。だって、扶桑社の文庫ってロマンスだし、おじさん方が読む黒い表紙の文庫と似ているような・・・。ロマンス本というのは、どうにもちょっと恥ずかしいのでござる。

 なのに、これを買ったというのは、テーマが人狼だったから。私が最初に買ってもらったマンガは手塚治虫の「バンパイヤ」だったし、中学時代にはウルフガイを買ってましたもの。それなりに、筋金いり。


 で、読んでの感想はというと、結構いいです。解説が!

 作品そのものは、まあ特に良いという程でもないけど、特に悪いという程でもない。まあ、こんなものだろうなあ、と思うのだけど、解説がなかなか鋭くって考えさせられてしまうのでありました。それも道理で、解説者はホラー作品の評論を手がけている人物だとか。
 
 

 ふんふんと解説を読みながらひっかかったのは、この作品の魅力の1つが行動する女性主人公の視点で語られる点にあるという指摘。

 人狼の作品はいろいろあるけれど、その多くは男性が主人公で、女性はそれに添えられる脇役に過ぎない。ウルフガイを例にとると、女性は年上だけどひたすらに主人公を慕う無力な女性で、人狼が戦うきっかけをつくるとはいえ、彼女自身が積極的に活動する訳ではない。解説者は「自立した女性像は隔世の感である」と言っているが、しかし考えてみるとSFやホラー等の作品で、自分自身の力で運命を切り開く女性像は増えてきているのではないか。


 
 少女マンガの中では、70年代から例えばオスカルが活躍し始めた。女性という事を言い訳にしてはいけない。ひたすらに自分の仕事に取り組む事が最も素晴らしく格好良く、そしてそういう風に生きれば、いつか「君は光、僕は影」と寄り添ってくれる男性が現れる、というのがすり込まれたのがそのころ。でも、その時点では、マンガやSF・ホラー・FTといった分野ではまだ古典的な男性好みの女性像しか見られなかったような気がする。

 

 例えばアニメにしても、宇宙戦艦ヤマトあたりでは、女性(森雪)はあくまでオペレーターとして主人公の活躍を補助するものであったし、女性は花を添えるものでしかなかった。けれど、80年代あたりから、多くの女性が自分自分の力で歩き始めている。
 例えば、ガンダムのあたりになると、ミライ・ヤシマにせよ、ララアやセイラなど、それぞれに悩みを抱えて、自分の人生を持ち始めている。そして、例えば(アニメとしての評価は割と低いけど)オーガスになると、ミムジイ達は、それぞれの人生をどう生きるか、自分自身の選択を考えている。
 FTの中だと、デジャーソリスは典型的なヒロインだし、コナンシリーズには、多少戦う女主人公が出てくるが、シリーズの一作品にすぎない。ところが帝国の娘〈上〉 (ハヤカワ文庫FT)になると、父や兄を策謀によって失った主人公は、一族と自分の生き残りをかけて、更に複雑な政治を駆使して政敵を倒すのだ。パーンの竜騎士のシリーズにしても、女性達は生き生きとして男性に負けはしない。カッコイイねえ!
 
      

 で、考えてみると、自分の意志を持つ女性主人公は、おおむね1980年代から以降で、女性作家によるものが多いということに気づく。コニーウィリスやビジョルドティプトリーや、日本では大原まりこや管浩恵や新井素子。      
 それって、「男性に負けない」と主張したウーマンリブの時代を経て、「え?男子と女子と何がちがうん?男子やけん掃除せんのはずるいやん。」と「男女同権」を至極当然と感じる世代の登場と無関係ではないのではないだろうか。80年以降の女性作家の急増というのは、そうした世代の女性達が、あくまでサブの仕事しかしない女性像や、未だに「イブやリリス」的女性しか描かない男性の作品に対して、自分の求める理想の自分を、自分にとって気持ちいい女性像を自らの言葉で語り出したということではないのだろうか。


 元より、源氏物語の時代から、物語る力は女性が能力を発揮しやすい分野である。そんな女性の描く物語が、女性だけなく男性読者も惹きつけ、女性の思いに共感できるようになると、女性がもう少し生きやすい時代になったりはしないだろうか。純文学でもホラーでもSFでもFTでも推理でも。考えてみれば、ヒトの男女比は1:1なのだから、作家における男女比も1:1である方が自然というものだろう。

 

 女性作家がもっと増えること、そして女性作家が「女性向け」の作品にとどまることなく、魅力のある女性主人公をもっと送りだしてくれるといいな、と思ったのでありました。


 (見事に作品と関係のない感想だわ・・・・。)