死都日本
こんな時期にだけど、これを読んだ。
- 作者: 石黒耀
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2002/09
- メディア: 単行本
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これが出版されたとき、結構評判になっていて読みたいなと思ったものの、何となくそのままだった。ところが、偶然もらったので早速読んだ。
評判になるだけあって、確かに面白い。破局噴火の説明も非常にわかりやすいし、噴火から逃げる状況も多分科学的な正確さもあるだろうし、描写もうまいのでリアリティーがある。一気に読ませて、しかも主人公である黒木は、破局噴火のまさにその場に遭遇しつつも正確な知識と的確な判断により危機を脱し、更には妻も救出し何とか生還するので、何万人が死に、まさしく日本が死の国と化してしまう大火砕流の話ではあるのに、読後感は明るい。
また、その破局噴火に伴う大火砕流を予見し、それに備えるべく政府を中心にK作戦が準備される。その準備のおかげで、早期にハザードマップができ、それでも被害をいささかなりとも軽減できただろうし、更にはその危機を利用して一気に国家債務を軽減するなんて芸当をやってのける。そういう、活躍があるからテーマの割に爽快によめる。
ただし、やっぱり日本沈没と比べると、その爽快さが欠点とも見える。日本沈没では、主要な、あるいは無名の人々の沈みゆく故郷に寄せる思いが丹念に書き込まれ、悲しく悲惨であると同時に力強い物語をつくる。潜水艇のりの小野寺は、沈みゆく日本から脱出する人を救うべく活動するが、恋人には会えない。その余韻が、物語に陰影をつける。
文章も生き生きとしているし、非常によくかけていて、面白いと思う。けれど、そうやって比較すると、もっと人を描くと深みが出て良いだろうと思った。
だけど、今九州では実際に新燃岳が噴火し、東北では大地震。物語と同じく、自民党に代わってこちらは民主党の管首相だったりする。なんか、妙に似ているのは、偶然だと思いたいな…。