今年の1冊目
お正月の一日に、何をしていたのかというと、それはやっぱり本三昧。大晦日の日の変わる頃に完成したおせち料理もあるし、お客もない我が家はのんびりのんびり。
風の音を聞きながら、ひたすら惰眠をむさぼるわんこの側で、本を読むのは至福の一時。
で、今回読んだのは先日図書館で借りだしたこれ。
共進化の謎に迫る―化学の目で見る生態系 (シリーズ〈共生の生態学〉 (4))
- 作者: 高林純示
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 1995/03/01
- メディア: 単行本
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1995年出版だからもう随分古くなってしまってしかも絶版。けれど、最近ちょっとダニに興味があるので、ダニの話題が載っているのを見て借り出してきたものだ。
で、この本300ページ弱の本だけど、一気に読んでなかなか面白い。3人の著者のチョウとアリとダニというそれぞれの分野についての話で、それぞれに興味深いけど、一番面白かったのはやっぱりダニの話。
ダニと言っても私が知りたかったのはマダニについて。マダニはどういう生活環を持っているのか。どうやって寄主は宿主にとりつくのか、簡単なマダニ識別法とかそういう事を知りたかったのだけど、残念ながらこちらは植物につくダニの話がメイン。植物と、それを食害するナミハダニと更にそれを捕食するチリカブリダニのお話。けれど、読み出したらこれがするっと頭に入ってきて、かつ面白い。
これによると、ナミハダニの餌となる植物の出す匂いは、ナミハダニを引き寄せると共その捕食者たるチリカブリダニも引き寄せるのだそうな。更に、ナミハダニに食害されると新たにナミハダニを引き寄せる物質を強く分泌し、それはナミハダニに分散を促し、更に周辺の植物へそれを知らせ、それを受け更に周りの植物はナミハダニの産卵を抑制しチリカブリダニを誘引する物質を分泌するんだそうな。
すごいなあ〜、一つの物質にこれほど多様な機能があるなんて。更にその機能を踏まえて「植物がつくる化学生態系ネットワーク」を図にしたものは見事だ。私たちには見えない感じない、けれど複雑巧妙な生物同士のコミュニケーションの世界があるようだ。もし、その声が聞けたなら、森は実に賑やかな声に満ちているに違いない。
そして、そういう声が、Y字型のガラス管を使って延々とダニの行く先を確認する実験によって確認できるというのが面白い。オランダまで行って、ひたすら(2万回)ダニの実験をする。その根気強さには脱帽。けれど、きっとやっている最中は、それほど苦痛でもなかったかもしれない。何度も何度も繰り返し、グラフを書き、統計検定を行い、「予測通り!」でも「なんでこうなるんだ?」でも、結果が出た時、更にその考察をいろいろしていく過程はどれほどわくわくしただろう。そう、それって本当に楽しい時間だったに違いない。
と言うことで、読んでいてもとても楽しい時間だった。
ちなみにこの著者である高林純示という方はこの本の時点では京大の農学部の助手なんだけど、現在はどこで何をされているのかふと思いついて検索してみたところ、京都大学の生態学研究センターの教授かつセンター長だった。さもありなん。これだけ見事な結果を出して、それを一般にも判りやすく説明できる人なんて、そうそうはいないだろう。アリについての山岡亮平さんという方の文章も楽しくて判りやすいけど、ダニなんてかなりマニアックな内容をイメージをしやすい比喩や簡潔な図を用いることで、本当に面白い話として語っている。
この後、研究はどうなったんだろう。バイオトロンを利用した夢の研究計画は実現したんだろうか?もとより、今はネットで論文もダウンロードできるから、それを知ろうと思えばできなくはない。英語が堪能ならね。てか英語はやだ〜
だけど、もし出来うることなら、研究のとば口にいる若者や興味を持つ普通の人にも、日本語でもっともっとその楽しさを伝えて欲しいなと思った。
にしても、そういう植物の出すコミュニケーション化学物質にリナロールが含まれていた。あんまり良くは知らないが、リナロールって、花の芳香成分だったはず。ということは、花の香り(花が咲くこと)が、ポリネーターの誘引意外にも周辺の生き物に影響を及ぼす事なんてあるのかな〜?