本を読む
これについて書いてみよう。
- 作者: ロイス・マクマスター・ビジョルド,Lois McMaster Bujold,鍛治靖子
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2008/01
- メディア: 文庫
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待ちに待ったチャリオンの続編。ヒューゴー・ネビュラにローカス賞まで受賞しているという3賞受賞作。ミソピイク賞しか受賞していないチャリオンでも、猛烈に面白かった。何たってビジョルドだし、きっとそれを遙かに上回る作品に違いない!
という先入観で読み始めたからなのかな〜。なんだろう、これ。ちょっと期待はずれ・・・。
いや、ファンタジーの作品としては、そこそこだとは思われるのだけど、期待が大きかっただけに、肩すかし。
で、なぜそんな感じがするのだろう、と考えてみた。
まず一点目。主人公のキャラクターに対する違和感。そもそも、全作チャリオンでは、イスタは極めて繊細で神経質で危うい感の漂うキャラなのだ。その母や娘のイセーレとは対照的で、だから祖母がイスタではなく孫に期待をかけその身を心配するのも頷けるし、祖母から受け継がれた政治的なセンスや行動力が孫娘で開花する様が面白い。
なのに、今作ではイスタはいつの間にか神経質な部分はどこかへいっちゃって、実に行動的。いろいろ行動に制約をつけられるのがうっとうしいという理由でいきなり巡礼に度に出ちゃって、そこで恐ろしいまで美丈夫なルテス、更にその異母弟のイルヴィンに出会うわけだ。で、この段階で、イスタのラブロマンスになっちゃって、ハッピーエンドになることが予想されてしまう。前後巻の前編の中盤で先が見えちゃうと、そりゃダメでしょう。チャリオンだと、危機を乗り越えたと思えばまた更に新たな危機が・・・、ってな感じで残り50ページを切った段階でさえもこれをどう納めるんだよう、と不安に成りながら読んで行くのだ。それが、最後の最後に一気に全ての状況が動いていって万事丸く収まっていくその爽快感は良かったよなあ。おお、そう来たか!と実に快感。で再読しながら、初読の時には見えなかった伏線を探して楽しむのだ。
ところが今作ではそういう、予測のつかない大きな物語があまりないというのが2つめの敗因だろう。同じくビジョルドのFT作品であるスピリット・リング (創元推理文庫)は、どちらかと言えば児童書だろうけれど、やはり広がった物語が最後に一気に収束していく様は見事だ。だけど、今作ではそれが弱い。
もちろん、シーンシーンの描写は巧みだし訳も上手い。個々のキャラも生き生きとしている。けれど、主人公のキャラクター設定の大幅な変更、更には神様の出過ぎにまず違和感・不自然さを覚えるし、そうすると物語の必然性に納得がいかなくなるのだ。つか、後半はこれってほとんどバラヤー内乱 (創元SF文庫)じゃね?イスタはコーデリアで、リスはドロウ。フォイはコウデルカの役回りで、お付きの二人の間で恋が芽生えるのもいっしょだよなあ・・・・。
つーことで、今作はビジョルドだと思って読んではいけません。
三賞受賞と思って読んではいけません。
そしたら面白いでしょう。