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  最近アマゾンでこれを買った。

 

雷鳥が語りかけるもの (ネイチャー・ストーリーズ)

雷鳥が語りかけるもの (ネイチャー・ストーリーズ)

 このシリーズには同じ著者の甦れ、ブッポウソウ (ネイチャー・ストーリーズ)という本もある。こちらが非常によかったので、とにかく買ってみた。

 雷鳥は誰でも知っているように、日本の高山だけに生息する鳥である。その雷鳥の現状や研究の歴史を、雷鳥に非常に強い思いを抱き、困難な高山帯での雷鳥の研究に精力を傾けた故羽田健三博士の思い出を交えながら描いている。
 「甦れ、ブッポウソウ」では、この美しく謎に満ちた鳥の興味深い習性が、徐々に明らかになっていく過程が非常に面白く描かれていたが、こちらはむしろ、淡々と非常に重要ではあってもきつい雷鳥の個体数調査の事や、習性が述べられている。そして、何より本の帯に「神の鳥は生き残れるのか?」あるように、雷鳥の未来はかなり暗くって、ついついさみし〜い気分になる。ブッポウソウの未来もそう大して明るくはないけれど、こちらはどうしても暗い未来の方が印象に残っていくのだ。けれど一方この本では、著者の中村浩志先生の思いや人となりが、非常によく伝わってくる。
 
 羽田先生の秘蔵っ子(たぶん)として先生のライチョウを研究して欲しいという願いを受けながらも、どうしても自分のやりたい研究をしてしまうといったことは、研究者としてはきっとどうしようもないことでありながら、多分つらくもあっただろう。そのカッコウの研究では学術的な賞を得ていることからも判るように、実力、行動力共に兼ね備えたすごい人である。そして多分に熱血派。温暖化による植生の変化やニホンザルやシカなどの分布の拡大に伴い、限られた所に隔離されて生き延びてきたライチョウはどんどん減少している。そんな個人ではどうしようもない危機的な現状に対し、恐らく膨大な労力と時間をかけて、ひょっとしたらそれは無駄な努力になるかも知れないけれど、それでもそうさせないために最前線で戦っていこうとしているのだと思う。
 
 
 この中村浩志先生のカワラヒワについての論文を、以前に読む機会があった。大学院時代に取り組んだ研究の論文だけれど、その研究方法を読んで「ひえー」っと思ったのを覚えている。カワラヒワの夏の換羽集合についての論文で、詳細は忘れたけれど、確か数年に渡り、合計で1000羽近くのカワラヒワ(スズメ大の小さな鳥)を捕獲しては計測し、標識をして、更に観察を続けていた。 どう考えてもそれって、とんでもない労力である。真夏の恐らくは35℃にもなる暑い最中や凍えそうな寒さの中を一人てくてくと歩きながら、小さなカワラヒワを観察し、識別し記録し、まとめていったのだろう。これを読むと、野外研究とは、そういう事なのだなあ、とつくづく感心した。(こんな事私には出来ないよ〜、と自信喪失もしたけれど。)また、「へえ〜、そうなんだ。」と、新しい事を知る楽しさを感じだ。(にしても、そういうカワラヒワの研究について「カワラヒワは(研究に体力がいらないから)女性向けの鳥である」って言い切る羽田先生という人もすごい人だ。)


 ただ、それは日本語とはいえ論文なので、入手経路も限られており、どう考えても限られた人しか目にすることはない。その点、こうした本であれば、研究ということ、研究者という人の事(きっと中村先生はかなりの個性派とは思うけれど)が一般の人に、特にこれからの若者にも伝得ることが可能な訳で、こうした活動も今後の研究者には非常に大切な事だと思う。

 
 とは言え、一冊の本を書くことは非常に労力が必要だし、誰がでも書けるものではない。でもだからこそ、ぜひこれからも書いていって欲しいと思う。そして、こうした本に惹かれて、鳥類、あるいは生態学、生物学の世界を覗き込み、たとえ将来生物学、その関連分野に携わらなくとも、その基本知識と科学的な考え方を身につけた人が増えて欲しいし、そうした人々の力で少しずつでも日本の生物に関する知見が増えて行くことが、ライチョウを始めとした多くの絶滅危惧種保全につながるのではないかと私は思う。

 
 個人的には更に、カッコウカワラヒワの本はぜひ希望!