夏の気配
久しぶりに早く帰った。
といっても、7時過ぎなので早いという表現は微妙に違うかもしれないけれど、夏至も近づいて、帰り道もまだまだ明るい。夕方の気分で川に沿って車を走らせていると、川の中から
「ギョギョシ、ギョギョギョシ」
という声が聞こえた。オオヨシキリの声である。とっさに車を止めて、川に生えるアシを眺めたが、見つけることはできなかった。
川を眺めていると、穏やかな夕暮れ時の気配が何ともいえなくて、家に帰るなりマルクを誘って散歩に出た。
暑くなって、しかも夕方になると、カだの何だのに虫が飛び始める。そうした虫を狙って「ジュチ」と鳴きながら、驚くほどたくさんのツバメが川の上を舞っている。向こうの方には、「ギェーギェー」とにぎやかに鳴きながらムクドリの群れが河原に降りたって何かをついばんでいる。水面には、虫を捕まえようとジャンプする魚で、あちこちに水紋が見える。いつの間にか2mを超える高さになったアシとオギで、川は一面の緑だ。
海に向かって歩くとまた、
「ギョギョシ、ギョギョギョシ」
という声が聞こえた。近いようで、大きな声。ようくアシの茂みを覗いてみると、今度はその姿を確認できた。と、今度は別のところからおなじように、
「ギョシ、ギョギョ。」
と声がする。
先ほどのところあわせて、少なくとも3羽はオオヨシキリがこのあたりにいるようだ。
川はにぎやかだ。
「ギョシシシ、ギョシ」とオオヨシキリが鳴く。
「ジュイ」と、小さく鳴きながらツバメが飛び交う。
「ギェコ」とアマガエルも時折鳴いて、さらには「ボーッ、ボーッ」とウシガエルが鳴く。
「ギェエッ」と鳴きながら、アオサギが飛んでいった。
海まで歩いて、家に帰り始めた頃には、すっかり日も暮れて、川は静か。
ツバメの代わりに、静かにアブラコウモリが川の上を飛び交っていた。
空には半月。
ううううっ。
いつもこれくらいに帰れたらどんなにか幸せかしらん!