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本を読む

  久々に、必要があってこの本を取りだした。

多足類読本―ムカデやヤスデの生物学

多足類読本―ムカデやヤスデの生物学


 その筋というか、生物(特に怪しい生物)に興味がある人は、当然知っていると思われる、割と有名な本である。

 
 私も生物に関する本は、ある程度定期的に新刊をチェックして、面白い、ないしは役に立つと思われる本は必ず購入している。特に図鑑や特定の生物に関する本は要チェックだ。こういった本はうかうかしていると結構絶版になることが多く、発刊された時に入手しておかないと、後々では馬鹿高くついたり古本でも入手不能なんて事が結構おきる。だから、変な分野の生物の本はよほど高価でない限りだいたい購入している。


 この本もそうやって購入した本の1冊なのだけど、他の生き物に関する本とは一線を画する独特な内容に、びっくり〜。まあ、確かにヤスデやムカデといった生物群はかなりマイナーだ。それについて語っているから驚いたのではない。ハエ学とかクモ学について語る人だっているし、そんなの普通だ。
 
 
 そうではなくて、この本では文章の至る所からヤスデやムカデなどの多足類に向けられるとっても濃くて深い愛情が感じられるのだ。
 もちろん、フィールド系生物学をやる人は元より生物が好きだろうし、世間ではマイナーな生物だろうがなんだろうが好きなものは好きだから研究をするのだと思う。けれど、普通の本は、どちらかというとそういう生き物に対する愛情というものはごくさりげなく書くものだったはずだ。
 
 研究者というものは論文を書くトレーニングを受けているし、そこでまず重視されるものは、観察された客観的な事実であり理論だ。愛情はあっても語っちゃいけないのよ〜。従って、そういう研究者の書くものは、どちらかと言えばやはり淡々と客観的に事実を述べるモノで、役に立つという反面退屈でもあった。ただそうは言っても、時に、愛しのハエやクモに向けられる偏愛がにじみ出ている場合があって、そういう時にふっと共感を覚えるのだ。

 
 しかしね、この人の場合は愛を隠さない。いや堂々と、どれだけヤスデを愛しているか、如何にヤスデlove なのかを、熱く語っているのだ。多足類オタクであることに誇りを持ち、その魅力をオタクらしいクールさで分析し、多足類の世界を再構築し、その不思議について熱く熱く語っているのだ。たまりませんねえ。

 
 やるじゃん!

 
 何たって、「多足類の造形美」という項目なんて、まず
 
 「多足類は極上の造形物である」

 から始まってるんですから。
 
「アオムカデ属の青の鮮やかさには美の本質がある」わけで、それを見ては「青という色の本当の美しさをしる想いがする。」たり、「つややかな体表を輝かせ、たくさんの短い歩脚を波打たせるように動くヤスデの姿は美しい。」と感じる、この感受性の鋭さよ!
 
 オタクというか、研究者はこうでなくてはあきまへん!とつくづくと想わされる

 

 それともちろん、ヤスデの美やムカデのつぶらな瞳にうるうるする繊細な感受性が大切であることも大事だが、社会人として自立していることも大事だ。社会性は大事。この人は、ヤスデloveな面を隠す事なく、けれどちゃんと学芸員として就職も果たし(この本を書いた当時は徳島県立博物館学芸員だったけど、多分現在は教育系の某大学の教授らしい)論文だけでなくこうした一般書も書いてるわけで、だからこそ私はそう言う点も含めて更に「すごいぞ」と想う




 ちなみに、この人は1962(S37)年生まれと言うことだ。と言うことは、ウルトラマン仮面ライダーや、妖怪人間とかヤマトやガンダムで育った人間であることは多分間違いないだろうし、そうした文化(サブカルチャア)によって育てられたオタク第一世代の研究者達が、その資質を生かして研究するだけでなく自分の世界についての愛情を表現するようになった事は、素晴らしいと想う。


 と言うことで、久々に読み直して、アタシもがんばろって想ったのでした。