「アリの巣をめぐる冒険」


 少し前に買ったまま忙しすぎで放置。今もやることは一杯あるのだけど、現実逃避したくって、手を出した。

アリの巣をめぐる冒険―未踏の調査地は足下に (フィールドの生物学)

アリの巣をめぐる冒険―未踏の調査地は足下に (フィールドの生物学)


 でもって、いろんな人も書いているように、とても読みやすい。この方のブログ断虫亭日乗の文章もそうだけど、文章が明瞭で、普通の人が考え込んでしまうような特殊な語句やネタを避けていて、昆虫採集を中心とした冒険譚に仕上がっている。
 
 
 以前に、同じ著者の編著による森と水辺の甲虫誌を読んだ事がある。そもそも何故に専門外のこんな本を買ったのか、自分でも覚えていないのだけど、とりあえずFITに手を出したときに読み返した。
 こちらの本は複数の研究者が自分の専門分野の事を語っているのだけど、全体の中で編者であるこの丸山先生の文章だけとても異質だった。多くの方は、こうした本の定番的書き方に則って、自分の研究をかみ砕いて記述しているのでネタ元は研究。しっかりグラフがあって、考えながら読むところも多い。ところが、丸山先生の文章だけは、一切難解なところはなし。更に優しげな線画で描かれた挿絵があって、何だか子供向けの説明を呼んでいるような感じを受けた。子供向けの文章というものは平易だけれど、それを書く事は易しい事ではない。だから、それを読みながら、この人はもっともっと子供も含む多くの人に、自分の研究を、面白いと思うことを伝えたいのだろうと思った。


 そして、この「アリをめぐる冒険」は、その著者の持ち味が、その良さが存分に出ている。知らない人にもわかりやすくすると言う点で、個々の昆虫の微細な特徴を詳細に記述することはなく、代わりに美しい写真がある。そして、分類学とはどういうものなのか、ハネカクシの分類の歴史が、全体の物語の中に上手く説明されているし、何よりそれを採る時の興奮の思いが伝わってくる。そして、次々に出てくる珍奇な昆虫たちはそれだけでも魅力的。


 一方で、読んでいくと、この方が研究者になれた理由がよくわかる。一流って、どういうことかよくわかる。
 
 研究者になりたい若者は、世の中に一杯いるだろう。実際、1ヶ月近くも昆虫採集を目的に外国に行くって、それだけも羨ましい。けれど、研究者は現在、それに就くことが極めつけに難しい職業の一つである。

 
 その中で、研究者としてやっていける為に必要な事は、多分まず研究者としての力量だろうけれど、その力量を磨く為にもまず人とコミュニケーションを上手くとれないといけない。誰からも好かれる人柄でなくてはいけない。
 自分を素直に表現し、どれほど偉くなっても知らないことは素直に誰からでも教わり、かつ自分の知っている事は誰に対しても分かち合う。それによって、どんどん仲間が増える。それによって研究が広がりを見せていくのだろう。
 著者は、好蟻性ハネカクシ(クサアリ類のアリノスハネカクシ族だっけ)の研究からスタートして、同じ好蟻性ハネカクシでも、熱帯のサスライアリにつくハネカクシ類の研究に取り組み、合わせてマンマルコガネ(これカワイイ)とか、シロアリの巣に住むコガネムシ類の研究にも手を出す。ついでにヒゲブトオサムシを集めツノゼミに手を出し、一方では海岸性のハネカクシも採集する。当然1人でカバーしきれるはずもない。
 だからそういうものを研究する若手を意識して育て、着実に若手が少しずつ育ってきているようだ。そういうスタンスを持つから、研究者として昆虫研究の中心的な所に招かれるのだろう。


 そして、目標を定めたらそれを実現できる実践力。
 研究者になるためには評価される必要があると分析する。そしてまずできることとして、学会の発表を優れたものにするべく1ヶ月前にはスライドを作り、更にそれを練る。これって大切な事だけど、実行できる人ばかりではないだろう。あるいは、1年間ひたすら英語論文を書き、図を描き続ける事。それは心身ともにタフでなければ、すれば良いとわかっていても実行はできない。人から言われてするのではなく、自分自身にノルマを課し、実践する力は研究者としてかなり重要そう。


 そして、何より自分のしている研究を面白いと思い、その意義を信じられること。そして更に、その意義を周囲に伝えられることが大事なのだろう。
 伝えて、共感してもらえれば、自分も自身の研究の意義を信じられる。けれど、どんな優れた研究だって、つまらないとケチをつけようと思えばつけられる。自分がどれほど面白いと思うことでも、世界の誰もそれを認めないならば、心折れてしまう。だからこそ、自身を信じ、努力し、それを伝える事は大事なのだと思った。


 
 この本は、フィールドの生物学のシリーズの中でもとても読みやすいので、高校生、あるいは中学生でも本を読み慣れているなら十分いけるはず。理科系、生物系を増やす為にも、まず図書館へリクエスト希望を出して入れてもらおう!